2022年秋、米国と中国の政権はそれぞれ重大な局面を迎える。バイデン政権は中間選挙、習近平政権は3期目を狙う党大会がある。両首脳は外交上の問題に加え、国内経済の難所を越えなければならない。

 米国はどうなる 
不支持率55%
窮地のバイデン氏にレームダック説

<span class="fontBold">2022年の中間選挙で民主党が議席を失うことが予想される。ジョー・バイデン米大統領の正念場だ</span>(写真=ロイター/アフロ)
2022年の中間選挙で民主党が議席を失うことが予想される。ジョー・バイデン米大統領の正念場だ(写真=ロイター/アフロ)

 「65歳以上の100人に1人が新型コロナウイルスで死亡」。米国に今、厳しい現実が突きつけられている。非難の的となっているのがブースター接種(追加接種)の決断が遅れたジョー・バイデン政権だ。2020年の大統領選でバイデン氏に票を投じた米国民は22年、中間選挙でどんな決断を下すのか。

コロナ対応が後手に回り支持は下降中
●バイデン米大統領の支持率の推移
<span class="fontSizeL">コロナ対応が後手に回り支持は下降中</span><br />●バイデン米大統領の支持率の推移
出所:米ギャラップ
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 「バイデン政権がレームダック(死に体)となる可能性は十分にある」。こう話すのは日系大手商社の幹部だ。就任2年目を迎えるバイデン大統領は国内に数多くの課題を抱え、人気も失墜している。米ギャラップによると、21年11月の支持率は42%で不支持の55%を下回った。「このままだと中間選挙で上、下院ともに過半を共和党に奪われる可能性が高い」と前出の幹部は話す。

 転換点は21年夏だった。新型コロナのデルタ型の米国上陸で感染が再拡大。6月初旬に1万人程度だった7日間平均の新規感染者数は8月初旬に10万人を超えた。

 ところが政権はブースター接種の推進をためらった。米国には「自分の健康について他者に指示されたくない」と考える層が一定数いるため、1回もワクチンを接種していない人たちがまだ4割程度いた。まずその層への普及が先との姿勢を貫いていた。

 この間、デルタ型の感染はワクチンを接種した層にも広がった。いわゆるブレークスルー事例だ。12月13日までの米国の累計死者数は約80万人に上った。「明らかに政権の失敗」と、国際政治学者のイアン・ブレマー氏は指摘する。

 識者に聞く 
イアン・ブレマー 氏[国際政治学者]
GAFA、地政学の重要プレーヤー

<span class="fontBold">(Ian  Bremmer)氏</span><br />米国際政治学者。1994年米スタンフォード大学で博士号を取得。25歳で同大学フーバー研究所の史上最年少研究員に。98年にシンクタンク、ユーラシア・グループを設立。政府系機関や金融機関、多国籍企業など約300の顧客を抱える。(写真=Maki Suzuki)
(Ian Bremmer)氏
米国際政治学者。1994年米スタンフォード大学で博士号を取得。25歳で同大学フーバー研究所の史上最年少研究員に。98年にシンクタンク、ユーラシア・グループを設立。政府系機関や金融機関、多国籍企業など約300の顧客を抱える。(写真=Maki Suzuki)

 世界的な物資流通の停滞やインフレーションが2021年に起きた直接的な要因は、新型コロナウイルスが流行してロックダウン(都市封鎖)した後、経済が復活したことで需要が急激に拡大したことにあります。

 供給網の逼迫で需要が供給を上回ったからインフレ傾向となった。また米国ではコロナ禍で仕事を失った人がより良い仕事への転向を考えたため、一部の業界で人手不足に陥った。ワーカーが労働環境の改善を求めた結果、賃金も上昇しています。

 ただ、米政府による巨額の経済刺激策のおかげで大きな問題は起きていません。インフレや供給網の混乱は一時的なもので、22年になれば次第に「ノーマル」に近い状況に戻っていくでしょう。

 コロナについて、22年は前年ほどの影響は出ないと考えています。もちろん、変異型で再び世界の国々が都市封鎖に踏み切ることは考えられますが、ワクチンもあるのでそこまでいく可能性は低い。米国や日本、欧州などの先進国で大きな混乱が起こることはないと思います。

 ただ、先進国以外では状況が変わってきます。例えばトルコではリラが暴落し、政府がそれでも金利を下げていることに国民から不満が噴出しています。同じようなことが他の裕福でない国々で起こる可能性がある。世界における貧富の差がますます拡大していくと思います。

 グーグルやフェイスブック(現メタ)などテック大手は独占的にデータを持ち、地政学における重要プレーヤーになりつつある。こうした企業はデジタルの世界で誰からも脅かされない完全な「権力」を手に入れています。自ら作り上げたアルゴリズムやルールにのっとって動いており、米政府ですら統制することができません。

 最も危惧すべきは国家安全保障上の問題です。テック大手が手にしているデータは常にサイバー攻撃の脅威にさらされていますが、それに対してどうするかを決めるのは国家ではなく彼らです。強大な力を持ったテック企業は中国でも日本でも欧州でもなく、米国にあります。これが地政学的に何を意味するのか。国際情勢を語る上でも、国家だけでなくテック企業の存在を含めて考えなければ見誤ります。地政学的に非常に興味深い「過渡期」にあるのです。(談)

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