この記事は日経ビジネス電子版に『2022年、コロナは風邪のような存在「エンデミック」になるのか』(12月15日)や『新築マンション、首都圏で平均7000万円突破の現実味』(12月17日)などとして配信した記事を再編集して雑誌『日経ビジネス』12月27日・1月3日合併号に掲載するものです。

経済が再起動するニッポン。個人も企業も過去2年間の経験を踏まえて動く。だが新型コロナウイルス、脱炭素、サプライチェーンなど課題となるテーマは多い。この先をどう見たらいいのか、2022年を展望する材料を探した。

 コロナはどうなる 
オミクロン型現れるも
風邪のような存在 「エンデミック」近づく

(写真=左:日本農業新聞/共同通信イメージズ、右:共同通信)
(写真=左:日本農業新聞/共同通信イメージズ、右:共同通信)
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 新型コロナウイルスは「オミクロン型」へと変異し、またも世界を不安に陥れている。ただ、人類はワクチンや治療薬の技術開発を着実に進めている。コロナは風邪のような存在「エンデミック」に近づくとの見方も出始めた。2022年はコロナとの共存を模索する年となる。

 新規感染者数はここのところ、かなり低い水準で推移している。国立感染症研究所のデータによると、人口10万人当たりの直近1週間の新規感染者数は11月16日以来、1人を割り込んでいる。ピークの8月24日に120人を超えていたのからすると、100分の1以下への減少だ。政府はワクチン・検査パッケージ制度を決めるなど、経済活動の再開に向けて動き出した。

 そんな矢先に届いたのが、「オミクロン型」出現の知らせだった。発端は南アフリカ共和国で新規感染者数が急増したことだ。同国国立伝染病研究所は11月24日、ゲノム解析の結果、新たな変異型を検出したと報告。世界保健機関(WHO)は同月26日、この変異型を「オミクロン」と名付けた。

 オミクロンは、ウイルスの外側にとげのように出ている突起物「スパイクたんぱく質」に30カ所以上の変異がある。エイズウイルスのように持続的に感染するウイルスでは変異の蓄積が見られることがあるが、インフルエンザのように治癒すると体内から消えてしまうタイプのウイルスでここまで変異が蓄積するのは珍しい。新型コロナワクチンの多くはスパイクたんぱく質への免疫反応を起こすよう設計されているため、変異の影響を見極める必要がある。

 オミクロン型の登場は、動き出した日本経済に冷や水を浴びせる格好となった。日経平均株価は11月25日終値の2万9499円をピークに続落。ダウ平均の他、海外の株式市場でも同様の動きが見られた。日経平均は12月14日時点でオミクロン報告前の水準に戻っていない。

WHO「ウイルスとの共存を」

 すでに新型コロナウイルスの感染の主流は変異型であるデルタ型となった。今後も新たな変異型に主流が置き換わる可能性がある。人類は22年、姿を変えるコロナをどこまで警戒する必要があるだろうか。

<span class="fontBold">葛西健事務局長</span>(写真=共同通信)
葛西健事務局長(写真=共同通信)

 リスクを全くゼロにしようとするのではなく、ウイルスとの共存を探るときだ──。こう語るのは、医師でもある葛西健WHO西太平洋地域事務局長だ。12月3日、フィリピン・マニラで記者会見を開き「ウイルスと長期間共存できるように適応していくべきだ」と語った。

 葛西氏はコロナへの警戒を解くわけにはいかないとしながら、過去2年間の経験を生かし、医療体制、社会経済への影響をできるだけ回避する対策を求めた。ロックダウン(都市封鎖)で学校が閉鎖されれば子供たちに影響するという事例に言及しながら、リスクゼロを目指すアプローチでなく、リスクを特定し、そのリスクを軽減する対策を採るべきだと語った。感染状況に応じて、他人との物理的な距離を取ったり、国境を管理したりする下記の表のような内容を組み合わせていくことを促した。

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 世界のコロナ対策は、コロナの正体が全く分からず混乱に陥った初期の段階から、ウイルスとの共存を模索する次の段階へ移行しつつある。

 「パンデミックからエンデミックへ」──。欧米のメディアではこんな文字を見かける機会が増えた。パンデミックは世界的にまん延する流行病を指し、エンデミックは一定の地域で普段から継続的に発生する疾患を指す。

 「風土病」と訳すと少しイメージしにくいが、感染症の広がり方は地域の生活習慣や環境、そこに生活する集団の健康状態などによって大きく異なる。葛西氏が呼びかけたのも、一律の措置ではなく、地域の状況に即した対応だ。

 京都大学ウイルス・再生医科学研究所の宮沢孝幸准教授は、オミクロン型のリスクに言及するのは時期尚早であるうえ、感染力の強い変異型が出てくる可能性はあるとしながら「全体としては、新型コロナ感染症が最初に出現したときに比べ変異型の出現とともに症状は軽くなっていると見ていいのではないか。新型コロナはただの風邪ウイルスに徐々に近づいている」と話す。

 ウイルスとの共存が言及されるようになった最大の理由は、この2年間で新しいワクチンの開発技術が実用化されたことにある。葛西氏は12月の会見で、ワクチンを「ゲームチェンジャー」と呼んだ。

 コロナワクチンの開発では、従来の感染症のワクチンとは違う手法が使われ、成功した。米モデルナや米ファイザーが使った「メッセンジャーRNA」の技術がその一つだ。

 メッセンジャーRNAを使ったワクチンを注射すると、ウイルスが持つたんぱく質が体内で作り出され、そのたんぱく質が本当に感染したときに備えて免疫を活性化させる。変異型が登場してもその変異型ウイルスの遺伝情報が分かれば、変異に対応したワクチンの開発に即座に取りかかれる。インフルエンザワクチンのようにウイルス株そのものを工場で増殖させて、不活化処理して作る方法より、格段に速く開発できる。

 実際、変異型への製薬会社の対応は早かった。WHOがオミクロンと名付けた同じ日、モデルナはオミクロン対応の追加接種用のワクチン開発に着手したと発表した。塩野義製薬も遺伝子情報を基にオミクロン型の抗原製造を始めた。

 22年は治療薬の開発も一段と進む。ただ、塩野義の山野佳則・感染症領域シニアフェローは「ウイルスや細菌は増殖を繰り返す中で、多くの変異株が出現し、その中で生き残るものも出てくる」と話す。ワクチンや薬が効かない変異型の出現は、ある意味で宿命だ。22年以降、ワクチンも治療薬も1つの製品の開発でゴールではなく、作用メカニズムや特性の違う複数の製品を用意することが欠かせない。それによって、有効性に影響する変異型の登場にも速やかに対応しやすくなる。

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