この記事は日経ビジネス電子版に『「追跡禁止」ネット広告業界に迫るXデー、日本企業はどうする』(12月8日)として配信した記事を再編集して雑誌『日経ビジネス』12月13日号に掲載するものです
成長を続けてきたインターネット広告市場が曲がり角を迎えている。「サードパーティークッキー」の利用にいよいよメスが入るからだ。海の向こうの話ではない。日本企業もマーケティング戦略の練り直しが急務だ。

ネット広告業界に「Xデー」が迫っている。広告配信を支える技術として広く使われてきた「サードパーティークッキー」にメスが入るのだ。複数のウェブサイトを横断して閲覧履歴を追跡することで、個人の趣味や嗜好を推測できる仕組みのことだ。
企業にとっては便利である。だから世界中で当たり前に使われるようになった。しかし、個人から見るとどうか。以前に見た商品やサービスにまつわる広告が違うサイトでも表示されると、まるで広告に追いかけられているようで気味が悪い。
プライバシー保護の観点からサードパーティークッキー廃止の機運が高まり、米アップルは2020年に同クッキーを完全にブロックした。米グーグルも23年には廃止すると発表。「サファリ」「クローム」という2大ブラウザーがそろってクッキー規制に動いたことで、ネット広告は大転換を迫られる。企業やマーケターは、クッキーに代わる「定石」を探さなければならなくなった。
文脈を解析して広告を配信

方法は大きく3つある。まずはクッキーを通じて取得できる「閲覧履歴」に頼らない方法だ。
にわかに注目を集めているのが「コンテキスト広告」である。ウェブページのコンテキスト、つまり文脈をAI(人工知能)で解析し、内容に沿った広告を配信する技術だ。三井住友カードは表にも裏にも番号がない「ナンバーレスカード」を広めるため、21年6月から米ガムガムが展開するコンテキスト広告を使い始めた。
例えば、クレジットカードのおすすめランキングや新生活、国内旅行、マイル、ポイ活(ポイント活動)などについての記事を開いたユーザーに、ナンバーレスカードの広告が表示されるようにしたのだ。
コンテキスト広告の利点は、消費者の関心事をリアルタイムで捕捉できること。過去の閲覧履歴を解析してユーザーの属性や嗜好を類推しなくても、興味を引く広告を即座に配信できる。AIの精度に左右されるサービスではあるものの、ページ内の文脈を読み解くだけなので、クッキーのように別のサイトでも同じ広告に追いかけ回されることはない。
三井住友カードの場合、クッキー技術に頼ったバナー広告と比べてコンテキスト広告のクリック率は倍増した。その後、ブランド調査をしたところ、カードの利用意向度も高まっていたという。
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