この記事は日経ビジネス電子版に『中国の「常連客殺し」は終わるか? データ活用天国に統制の波』(12月2日)として配信した記事を再編集して雑誌『日経ビジネス』12月13日号に掲載するものです
中国で11月、個人情報保護法が施行された。成立から施行まで2カ月強は異例の短さだ。急な制度変更に加え、当局も問題を次々と指摘。経済界には混乱が広がっている。プライバシー意識を高める中国の消費者に、どう向き合うかが日本企業にも問われる。

中国配車アプリ最大手の滴滴出行(ディディ)が窮地に陥っている。12月3日、ニューヨーク証券取引所の上場を廃止し、香港での上場を進めると発表した。滴滴は6月末に上場を果たしたばかりだった。保有するデータの取り扱いを巡って当局からにらまれ、米上場廃止を要求されたとみられる。
きっかけの一つは2月末、ある報告書が公表されたことだった。
「iPhoneユーザーは滴滴出行で『アップル税』を支払っている。高い料金のクルマが割り当てられる可能性が高い。割引の額も確率も低い」。手掛けたのは上海復旦大学の孫金雲教授が率いるチーム。複数の配車サービスの運用状況を実地で調べた上で、一部の利用者が不当に扱われていると指摘した。
iPhoneユーザーを狙い撃ち
滴滴のアプリは、通常のクルマと高級車を同時に呼ぶ機能を持っている。その場合に実際にどちらが配車されるかは、滴滴が決定する。孫教授のチームはiPhoneとアンドロイドのスマートフォンを使い、上海や北京など5都市で800回以上の同時注文を繰り返した。その結果、iPhoneでは32%の確率で高級車が配車されてきたのに対して、アンドロイドスマホではわずか11%だった。
この事実が明らかになった途端、「ビッグデータ殺熟だ」との批判が滴滴に殺到した。殺熟とは「常連客(熟客)を殺す」という意味で、常連客をターゲットにして多くのお金を搾り取る行為を指している。比較的高価格なiPhoneを保有する人を狙い撃ちしていると見なされた。
アンドロイドスマホの利用者同士でも差を付けていた。高価格機種を使っているユーザーほど高級車が配車される確率が高かった。配車依頼の時間帯などによって受けられる割引についても、iPhoneユーザーは冷遇されていると記載されている。「iPhoneユーザーは平均2.07元(約35円)の割引しか受けられず、それ以外のスマホユーザーの4.12元よりも明らかに低かった」(報告書)
需給に応じて価格や料金を変動させる「ダイナミックプライシング」は、適正に運用されれば企業側にも顧客側にもメリットがある。だが根底には、構造的な情報格差がある。
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