アップルによれば、「ヘイ、シリ」と呼びかけなければシリは作動しないことになっている。だが録音データに含まれていたのは夫婦げんかや見ている映画の音、自身が患うがんのこと、性行為……。こんなときに「ヘイ、シリ」と言うはずがない。
作業画面を切り替えると、録音されたデバイスに保存されている音楽や映画、連絡先の名前や電話番号、位置情報まで表示された。こんなものを自分が見ていいのか。
ここまで説明するとルボニエックさんは、もう1枚の画像を見せてくれた。19年4~6月期に処理すべき録音データの進捗表だ。「場所」の欄には国と言語が並んでいた。「ドイツでドイツ語」「オーストラリアで英語」……8番目には「日本で日本語」とある。日本では9件を除き、71万6379件が処理済みだった。

ルボニエックさんの我慢に限界が来たのは、小児性愛者らしき人物の会話を聞かされた時だ。上司に相談すると、「あなたたちが希望する音声だけを用意することなどできない」と突き放された。
「アップルは個人を特定できない状態でデータを保管しているというが、名前や電話番号など複数のデータがあれば特定できる。社内には別に音声内のキーワードをiPhoneの他のデータと結びつける部隊がいた。会話内容を広告につなげるためだと思った」(ルボニエックさん)
自分が見て、聞いた事実を世界中の人が知る権利がある。ルボニエックさんは仕事を辞め、いくつかの証拠を手にフランスに戻った。欧州の主要メディアに情報を流し、その後、名前と顔も公表した。
過熱する報道を受け、アップルは19年8月28日、こう釈明した。
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