約2年に及ぶコロナ禍で、一部の地域は独自の仕組みを構築している。徹底した効率化を図る神奈川県、地方の特性を生かす和歌山県……。第6波に備え、国と地方の医療ガバナンスを作り直す時だ。

<span class="fontBold">感染状況に応じた病床の増減を実行している済生会横浜市東部病院の三角隆彦院長(下)と山崎元靖副院長</span>(写真=加藤 康)
感染状況に応じた病床の増減を実行している済生会横浜市東部病院の三角隆彦院長(下)と山崎元靖副院長(写真=加藤 康)
(写真=加藤 康)
(写真=加藤 康)

 「今、街の人出もかなり多くなってきた。また大きな感染の波が来たらどうなるかと心配しています」。済生会横浜市東部病院の三角隆彦院長は、緊急事態宣言解除後、確実に増えている横浜市内の人流に神経をとがらせているという。

 神奈川県内で重症や中等症の新型コロナ患者を受け入れる高度医療機関として位置付けられている同病院。人の動きが活発になって感染が拡大したらコロナ病床をいち早く拡大する態勢を整えている。県内で1日に2878人(8月20日)の陽性が判明するほど感染が爆発した第5波では、8月初めまで計26床だったものを9月1日には50床まで増やしたという。

 約560床を抱える市内屈指の大病院といっても、これだけコロナ病床を拡大するのは容易ではない。新型コロナ以外の疾病の手術で緊急度が高くないものの一部を延期したり、入院を抑えたりするなど通常医療を制限する必要が出てくる。病床と医師・看護師などの人材を確保するためだ。同病院の場合、「通常は毎月1500人程度が入院するが、8~9月は1000~1100人に抑えた」(山崎元靖副院長)という。

 だから今、延期していた手術を実施し、入院も受け入れて通常医療の回復を図っている。そこへ再び感染拡大が襲ったら……。医療の現場は今も緊張感が途切れていない。

 国が11月12日にまとめた第6波対策の柱は、入院数が第5波より3割増えても対応できるように病床を増やすというものだ。場合によっては、国の責任で通常医療を制限して対応するとしている。

 だが、病床に加えて医師、看護師など医療従事者を増やすにはどうしても時間がかかる。それを感染者急増などの変化にどのように合わせていくのか。通常医療を制限するといっても、地域での医療機能の分担などをどう進めて最低限の医療を保障するのか。PART1で指摘した東京都の例のように、病床はあっても人の数がボトルネックになって生かし切れないケースは少なくない。沖縄県のようにワクチン接種が順調に進まない地域もある。

 第6波への備えで何より重要なのは、自治体が状況に応じて医療の体制を機敏に動かし、整備するコントロール力を付けること、そして医療の側も即応力を高めることだろう。つまり、地域の医療ガバナンスを強くするのだ。国の第6波対策も、これがなければ効果は半減する。

 横浜市東部病院がある神奈川県は、その点で一歩先を行く。同県の仕組みは、新型コロナ患者を受け入れる病床の拡充という「入り口」から、重症・中等症患者などの病状が軽くなった後の地域医療機関などへの転院調整といった「出口」まで県が司令塔になって動かすものだ。

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