この記事は日経ビジネス電子版に『「次のパンデミックへの備えを日本製で」 塩野義製薬・手代木社長』(11月30日)として配信した記事を再編集して雑誌『日経ビジネス』12月6日号に掲載するものです。

新型コロナ感染症向けの経口治療薬やワクチンの開発を急ぐ。その視線はいつか来る次のパンデミック(爆発的感染)を捉えている。国のワクチン備蓄についても司令塔の不在を解消するよう提言する。

<span class="fontBold">手代木 功[てしろぎ・いさお]</span><br>1959年宮城県生まれ。82年東京大学薬学部卒業、塩野義製薬入社。2002年取締役、06年専務執行役員、08年社長。新薬メーカーの業界団体である日本製薬工業協会の会長や、製薬関連の業界団体の連合会である日本製薬団体連合会の会長を歴任した。(写真=小林 淳)
手代木 功[てしろぎ・いさお]
1959年宮城県生まれ。82年東京大学薬学部卒業、塩野義製薬入社。2002年取締役、06年専務執行役員、08年社長。新薬メーカーの業界団体である日本製薬工業協会の会長や、製薬関連の業界団体の連合会である日本製薬団体連合会の会長を歴任した。(写真=小林 淳)

新型コロナウイルス感染症に有効な経口薬の開発を進めています。

 創薬史上最速に近いペースで取り組んでいるところです。ただ、日本での感染が激減したので、韓国とシンガポールでも試験を行うことにしました。こちらも現地の会社や当局の協力を得て、記録的なスピードで開始できる見込みです。

 これには、良かった面もあると考えています。今後、先進国でワクチンの2回接種が7割、8割まで進んでくると、「重症化しないし死亡も減ったので何もしないでいい」との考えが出てくるかもしれません。でもブレークスルー感染で発症はするし、他人にもうつします。だからワクチンの2回接種を受けた人に抗ウイルス薬を使った場合の安全性や有効性のデータを今のうちに取っておくと、将来、2回接種が標準になったときに役立つと思うのです。

 インフルエンザでは何年も前からワクチンを打っていますが、発症したら医療機関に行って検査を受けて、抗インフルエンザ薬を使って治療しますよね。マスクや手洗いはともかく、感染を恐れて行動制限をするようなことはありませんでした。そこに戻すには、何としても経口薬が必要だろうと。その思いで、去年から取り組んできました。

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