この記事は日経ビジネス電子版に『飲み薬に国産ワクチン、そろってきた対コロナの矛と盾』(11月29日)、『日本のワクチン産業復興への道、KMバイオと武田薬品に聞く』(12月1日)として配信した記事を再編集して雑誌『日経ビジネス』12月6日号に掲載するものです。

ワクチンの登場が、日本の新型コロナ感染の急減に貢献したとみられる。ただ、コロナ禍から完全に抜け出すには治療薬の充実も欠かせない。手軽に服用できる飲み薬の登場が新型コロナとの闘い方を変えそうだ。

<span class="fontBold">米ファイザーが開発し、米国で申請した経口抗ウイルス薬の製造の様子</span>
米ファイザーが開発し、米国で申請した経口抗ウイルス薬の製造の様子
<span class="fontBold">ファイザーの経口薬は、抗エイズウイルス薬リトナビルとの併用で、入院・死亡のリスクが約9割減少した</span>
ファイザーの経口薬は、抗エイズウイルス薬リトナビルとの併用で、入院・死亡のリスクが約9割減少した

 「人類にとって素晴らしい日だ」

 11月5日、米製薬大手のファイザーは開発中の抗ウイルス薬が、重症化リスクの高い新型コロナ感染症患者の入院と死亡のリスクを89%低減したとする臨床試験の中間解析結果を発表。アルバート・ブーラCEO(最高経営責任者)は胸を張った。

 2020年から世界に急拡大した新型コロナ感染症の患者に対してどんな治療薬を提供できるか。医薬品メーカーに突き付けられた課題に、ついに答えが見つかったのだろうか。

軽症者向け治療薬が続々

治療薬も徐々に出そろってきた
●新型コロナ感染症向けの主な治療薬(2021年11月26日時点)
<span class="fontSizeL">治療薬も徐々に出そろってきた</span><br />●新型コロナ感染症向けの主な治療薬(2021年11月26日時点)
[画像のクリックで拡大表示]

 新型コロナ感染症の発症後に使える治療薬は徐々に増えている。日本での承認が先行したのは中等症から重症の患者に使えるものだった。「レムデシビル」(米ギリアド・サイエンシズ)や「デキサメタゾン」(日医工)などが医療の現場で使われてきた。

 21年7月には軽症患者にも使われる中和抗体薬の「ロナプリーブ」(中外製薬)が承認され、11月からは発症抑制の目的でも使えるようになった。9月には同じく中和抗体薬の「ゼビュディ」(英グラクソ・スミスクライン=GSK)が承認された。

 これらの中和抗体薬は、ウイルスに対する抗体を注入して増殖を抑え、軽症患者を重症化しにくくするものだ。複数の抗体を組み合わせて注入するものは「抗体カクテル療法」と呼ばれる。発症して数日以内に投与するのが望ましいが、注射で投与するため発症直後に医療機関で受診する必要があり、やや使いにくい。

 そこで期待が高まるのが経口薬(飲み薬)だ。冒頭のファイザーの治療薬はその一つ。ファイザーは11月16日に米国で緊急使用許可を申請した。

 ファイザーの経口抗ウイルス薬は、ウイルスがヒト細胞内で増殖するためにつくり出す酵素「3CLプロテアーゼ」の活動を妨げる化合物だ。この化合物が体内で分解されるのを防ぐ目的で、抗エイズウイルス薬リトナビルと一緒に服用する。この併用療法には、米国で「パクスロビド」という販売名が付けられる予定だ。

 ファイザーの発表の約1カ月前、米製薬大手のメルクは米国で経口抗ウイルス薬「モルヌピラビル」の緊急使用許可を申請した。11月初めには英国で条件付き承認を取得している。

 モルヌピラビルは、ウイルスの本体であるRNAを合成する際に働き、突然変異を誘導してウイルスの増殖を止める方式の薬だ。メルクは11月26日、モルヌピラビルの臨床試験の最終解析結果を公表。入院・死亡リスクを30%減らせたとした。中間解析で示していた「50%減」よりは効果が低下した。

次ページ 国際共同治験に日本も参加