この記事は日経ビジネス電子版に『全社員をDX人材へ、SOMPOホールディングスの危機感』(11月25日)として配信した記事を再編集して雑誌『日経ビジネス』11月29日号に掲載するものです。

社内でくすぶる「負債人材」を「資産」に変えなければ未来はない──。デジタル化の影響を受ける日本企業がリスキリングに本腰を入れ始めた。単なる従業員教育を超え、経営そのものを改革する覚悟が求められる。

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SOMPOホールディングスはDX基礎研修を全従業員に実施し、研修後のパネルディスカッションでは受講者の苦労や体験談などが語られた。(写真=的野 弘路)

 SOMPOホールディングス(HD)傘下のSOMPOひまわり生命保険で法人統括部に所属する臼井康仁さんは今年、会社が提供するDX(デジタルトランスフォーメーション)の基礎を学べる研修を受けた。

 「バカな質問もたくさんしたが、研修を受けることで徐々にデジタルの知識を理解できるようになった」。研修を振り返り、臼井さんはこう話す。

<span class="fontBold">トークセッションはリアルの会場に加え、オンラインでも開催された。合計で600人の視聴があった</span>(写真=的野 弘路)
トークセッションはリアルの会場に加え、オンラインでも開催された。合計で600人の視聴があった(写真=的野 弘路)

 SOMPO HDは今、デジタル人材の育成を急ピッチで進めている。基礎研修は国内グループ全社員に当たる6万人が対象。海外子会社などで実施することも計画する。

 このような大規模なリスキリングに取り組むのは、DXの波に乗り遅れてしまうと事業の成長はないという強烈な危機感があるからだ。

損害保険需要は先細りに

 利益の6割を占める国内損害保険事業は自動車の自動運転やシェアリングサービスが広がれば、交通事故のリスクが減り、保険に加入する人も減少する。今後は保険需要が細り、事業が縮小するという予測も出ている。

 こうした未来に備え、同社は2021年度から23年度までの中期経営計画で、国内損保事業や海外保険など主力の4つの事業に加えて、「デジタル事業」を第5の柱とする新たな目標を掲げた。

 特に力を入れるのが、「リアルデータプラットフォーム(RDP)」と呼ばれる、実際の現場データを使った新たなプラットフォームの構築だ。様々な社会課題を解決する最新のソフトウエアを自治体や企業に提供する。具体的にはグループ内外のデータを使って災害の被害予測シミュレーションなどを想定する。

 データプラットフォームのノウハウを現場に落とし込み、実際のサービスを作る。それは、専門のDX人材に任せていればできるというわけではない。現場の困りごとや顧客ニーズに最も詳しい事業部門に所属している社員がデジタル技術を理解することは強力な武器になり得る。その足掛かりとなるのが、「デジタル人材育成」の構想だ。

 冒頭の臼井さんは法人向け保険営業の企画などに携わり、以前はフィンテック企業の経営者と話がかみ合わず困ることがあった。「営業の場面でも、AI(人工知能)を取り入れることで、圧倒的に効率化できるということが分かった」と話し、研修で得た知識の活用法を見いだしている。

 研修では「現代の読み・書き・そろばん」とも呼ばれる、AIやビッグデータ、アジャイル開発、デザイン思考などを学ぶ。こうした研修には、同社が資本業務提携を結ぶAIスタートアップのABEJA(東京・港)のノウハウも組み込まれている。

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