この記事は日経ビジネス電子版に『東芝は「5年後の日本企業」、シェルも狙うアクティビストの圧力』(11月17日)として配信した記事を再編集して雑誌『日経ビジネス』11月22日号に掲載するものです。
かつては企業の利益をかすめ取るアウトサイダーとして敬遠されたアクティビスト。今や東芝の前取締役会議長を「落選」させるなど、影響力が増している。経営者は、敵対か屈服かという二者択一を超えた「真の対話」を迫られている。
「多くのステークホルダーを抱えるシェルは戦略に一貫性を欠き、誰も満足できなくなっている」
米著名アクティビスト・ファンドのサード・ポイントは10月27日、英蘭石油大手ロイヤル・ダッチ・シェルに会社分割を求めていることを明らかにした。
伝統的な化石燃料部門と、液化天然ガス(LNG)や再生可能エネルギーなどを切り離して、複数の会社に再編すべきだと主張。二酸化炭素の削減量と株主への利益還元を大幅に増やせるとした。海外の通信社は、サード・ポイントがシェルに約850億円を投資したと報じている。
特徴が異なる事業を分割し、投資家に稼ぐ力を見やすくする手法は、サード・ポイントが2019年にソニーに要求した半導体部門の分離や、アクティビストに追い詰められた東芝の分割構想とも重なる。
シェルのベン・ファン・ブールデン最高経営責任者(CEO)は、「環境負荷が小さなエネルギーへ移行する資金は、(石油関連など)レガシービジネスからきている」などとして、対抗する構えを見せている。
両者の主張のどちらが株主の賛同を集めるのか。従来なら会社側が優位という見方が大勢だっただろうが、近年はそのバランスが揺らいでいる。
今年5月に開かれた米エクソンモービルの株主総会。環境を重視する米新興ファンドのエンジン・ナンバーワンが取締役候補4人の就任を提案し、3人が当選した。エンジンの株式保有比率は0.02%にすぎなかったが、米公的年金基金のカルパースや世界最大の資産運用会社である米ブラックロックが賛同した。アクティビストの主張は周囲を巻き込み、巨大企業も無視できなくなってきた。
始まりは「乗っ取り屋」
十数年前までのアクティビストは招かれざる客のイメージが強かった。それが、どう変化してきたのか。

原点は1980年代の米国だ。「乗っ取り屋」として恐れられたカール・アイカーン氏や、小糸製作所へ取締役を送り込もうとしたブーン・ピケンズ氏らが名をはせた。敵対的買収を仕掛け、「高値で株を買い取らねば会社を分割する」と迫る手法は、企業経営者を震撼(しんかん)させた。
日本でも90年前後のバブル期、事業会社や仕手筋による敵対的買収が増えた。「アクティビスト」という言葉が注目されるようになったきっかけは、元通商産業省(現経済産業省)の村上世彰氏だろう。昭栄(現ヒューリック)や阪神電気鉄道など「保有している資産に比して時価総額が低い企業」(村上世彰氏『生涯投資家』)を狙い、メディアを通じて自らの主張を訴えた。
主な標的は、値上がりが期待できる割安な「バリュー株」だ。余剰現金を使った自社株買いや配当増、持ち合い株の売却などを通じて、企業が保有する価値を顕在化するよう求める。経営陣との交渉がうまくいけば水面下で矛を収めるが、妥協できなければ、株主総会で取締役の交代を求めるなど強硬手段に打って出る。
投資先への無理解も世論の反発を招いた。2007年、ブルドックソースに買収を仕掛けた米スティール・パートナーズの代表者が「私はソースが嫌いだ」などと発言。村上氏の逮捕もあり、アクティビストは企業経営を阻害する乱暴者という評価が定着した。
転機をもたらしたのは安倍晋三元首相だった。成長戦略として掲げた「『日本再興戦略』改訂2014」では企業の稼ぐ力を高めるため、社外取締役の活用や機関投資家と企業の「よい意味での緊張関係」を求め、コーポレートガバナンスの強化を掲げた。
関係の深い金融機関や取引先と株式を保有し合う「持ち合い株」の解消が求められ、株取引の流動性が高まり、機関投資家やアクティビストが株を保有しやすくなった。
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