この記事は日経ビジネス電子版に『最近「ゆるブラック」増えてない?覆面エージェント3人が語る』(11月2日)として配信した記事などを再編集して雑誌『日経ビジネス』11月15日号に掲載するものです

働き方改革に取り組んだ結果、社員の意欲が失われる──。それを防ぐには「働きやすさ」だけでなく「働きがい」も考慮し改革する必要がある。先進企業の試みに、そのためのヒントを探る。

SOMPOホールディングス
社員の「働きがい」を定点チェック

<span class="fontBold">2020年度から実施している「1on1ミーティング」の一幕</span>
2020年度から実施している「1on1ミーティング」の一幕

 「この1カ月間、仕事で心を動かされた出来事はありましたか」

 業務が一段落した午後4時。福岡県内の損保ジャパンのビルの一室で熱心に話し込んでいたのは、保険金の支払いを担当する同社九州保険金サービス第三部の竹内隆弘部長と、同部の古沢玲奈課長だ。

 これは、持ち株会社のSOMPOホールディングス(HD)が2020年度から実施している「1on1ミーティング」の一幕だ。やり取りのベースとなるのはMYパーパス。文字通り社員それぞれの人生の目的を指す。古沢さんが掲げるMYパーパスは、「明るくはつらつと生きられる社会の実現」。古沢さんは和気あいあいとした課内の様子を紹介し、MYパーパスに沿った形で仕事に取り組めていると竹内さんに伝えた。

面談を増やすだけではだめ

 会社を“ゆるブラック化”させ、一部社員から働きがいを奪っているとされる働き方改革。そんな雰囲気をいち早く察知し、とりわけコロナ禍以降に社内での面談やミーティングの機会を増やそうとした会社は少なくない。ただその多くが、画一的な近況報告や悩み相談にとどまっているのも事実。年功序列脱却のための人事制度改革やジョブ型人事制度の導入などに業界に先駆けて取り組んできたSOMPOHDは、それだけでは不十分と判断した。

 同社の、MYパーパスを重視した面談のベースにあるのは、いわば「人は、自分の信条や大切にしている価値観と近い作業をするときに、生き生きと働ける」という考え方で、社員の感情を重視する。

自分と会社のパーパスの重なり具合を認識する
●SOMPOホールディングスの働きがい改革の独自部分
<span class="fontSizeL">自分と会社のパーパスの重なり具合を認識する</span><br />●SOMPOホールディングスの働きがい改革の独自部分
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 例えばPART1で登場した京子さんのMYパーパスは明らかに「自身の成長の実現」。それが働き方改革で阻害された結果、京子さんは働きがいをなくしていった。

 そんな状況に古沢さんが万が一にも陥らないように、竹内さんは話を聞きながら現状を確認していく。「明るくはつらつと生きられる社会の実現」をMYパーパスとする人材が重視するのは、例えば職場の調和や安定した人間関係のはず。問題の予兆があれば、共に善後策を練り、時に過去の自分の経験も踏まえてアドバイスを送る。

 回数は定めていないが、同社では今、グループ約6万人の社員が自主的に動けるよう、この“MYパーパスチェック面談”に週1回~月1回程度のペースで臨む。会社だけではなくプライベートも含めて自分がどんな時にワクワクしたかなどを各従業員が分析。上司との対話を通じてそれぞれの「MYパーパス」をまずは浮かび上がらせ、会社のパーパスのどの部分と重なるか点検していく。

 MYパーパスの確認作業は上司と部下の「1on1」の形にとどまらず、管理職クラスの社員が複数で集まり、おのおののMYパーパスなどについて議論する場も設定されるという。

 さらに9月からは櫻田謙悟社長が自ら、社員とMYパーパスなどについて対話する「タウンミーティング」もオンラインで開始している。

<span class="fontBold">社長とのオンラインのタウンミーティングも好評だ</span>
社長とのオンラインのタウンミーティングも好評だ

 10月下旬に開催されたミーティングでは東北地方の支社などの社員が参加。19年入社の若手社員など4人がパネリストとして参加し、それぞれのMYパーパスや仕事について、トップと遠慮のない意見交換をした。

 一連の取り組みを率いるのは人事部の加藤素樹特命部長らだ。「社員の意識のパラダイムシフトを起こす」と、今後も社員の働きがいを高める仕組み作りに力を入れる考えだ。

<span class="fontBold">人事部の加藤素樹特命部長は働きがい改革に奔走する</span>
人事部の加藤素樹特命部長は働きがい改革に奔走する

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