この記事は日経ビジネス電子版に『最近「ゆるブラック」増えてない?覆面エージェント3人が語る』(11月2日)として配信した記事などを再編集して雑誌『日経ビジネス』11月15日号に掲載するものです

働き方改革の成果が芳しくないことを映すデータは若手社員の意識調査だけではない。「労働時間は減ったが生産性は上がらぬ企業」が増えたことを如実に示す数字もある。それはそのまま、少なからぬ企業の働き方改革の中身に問題があることを示している。

<span class="fontBold">生産性の低い業種ほど労働時間の削減分に人員増で対応した</span>(写真=左下:kazuma seki/Getty Images、中上:JohnnyGreig/Getty Images、右下:Yagi-Studio/Getty Images)
生産性の低い業種ほど労働時間の削減分に人員増で対応した(写真=左下:kazuma seki/Getty Images、中上:JohnnyGreig/Getty Images、右下:Yagi-Studio/Getty Images)

 日本の会社の中から長時間労働をなくすことには成功したものの、一部世代のモチベーションに負の影響を与えた可能性がある働き方改革。だが本を正せば、労働時間削減の最終目的は生産性の向上、ひいては日本経済の活性化を狙ったものであったはずだ。

 PART1で見た通り、働き方改革後に労働時間の減少が目に見える形で表れたのは、厳しい罰則を伴う規制を課したからである。2019年4月1日から順次施行されている「働き方改革関連法」は、長時間労働の是正や過労死の防止を目的とした“労働時間の管理の厳格化”に徹底的に力点が置かれた。その施行によって、これまで事実上青天井だった残業時間に対し罰則付きの上限規制が課され、労働者任せだった有給休暇の取得も年間5日は使用者が取得させるよう義務化された。

 同法施行を主導した当時の安倍晋三政権は「働き方改革こそが生産性を高める最良の手段」と訴えた。だが改革は本当に生産性にプラスの影響を与えたのだろうか。

 ここで改めて、生産性とは何かを考えてみたい。何かを作るとき、それがモノであってもサービスであっても、設備や原材料、人間の労働力が必要だ。こうしたヒトモノカネの投入(インプット)と、生み出されたモノやサービス(アウトプット)の比率を表すのが生産性である。値が高いほど、効率が良いとされる。

 働き方改革は主にマンパワー、いわゆる労働生産性の話をしているので、生産性の定義はアウトプット(モノやサービスの生産量)をインプット(労働時間×投入人数)で割ったもの、となる。

        アウトプット
    (モノやサービスの生産量)
生産性 = ───────────
        インプット
     (労働時間 × 投入人数)

 当然のことながらこの場合、生産性を高めるには、分子(アウトプット)を増やし分母(インプット)を減らすのが効果的だ。

 働き方改革以降、日本で起きた長時間労働の是正は、分母である労働時間の減少につながるため、分子の数が変わらなければ生産性は高まっておかしくない。

       アウトプット↑
生産性↑ = ──────────
        インプット↓

 だが労働時間の削減、すなわちインプットの減少は、経済前提が同じである限りアウトプットの減少にもつながってしまう。そのままでは労働生産性の向上にはつながらず、経済は縮小均衡に陥ることになりかねない。

       アウトプット↓
生産性↓ = ──────────
        インプット↓

 ではなぜ、当時の安倍政権は働き方改革で労働時間が減ると生産性が向上すると考えたのだろうか。それは「人員配置の工夫や作業工程の見直し、多様な働き方の導入によって現場の効率が上がり、労働時間を減らすことができれば労働者の意欲は向上する。その結果、インプットの減少による負の影響を補いながらもアウトプットの増加が起きる」と展望したからだ。

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