この記事は日経ビジネス電子版に『財務を徹底分析、ANA・JALはコロナ禍でどこまで追い込まれていたのか』(10月29日)として配信した記事を再編集して雑誌『日経ビジネス』11月8日号に掲載するものです。

 新型コロナウイルスの感染拡大が始まっておよそ600日。17ページまでに見たように、需要が蒸発した航空大手2社は生き残りをかけた苦闘を続けた。その軌跡を、本欄では営業・財務などのデータで振り返る。

[画像のクリックで拡大表示]

 受けた打撃の大きさから見てみよう。図①は横軸が2019年4~6月期の売上高を示し、縦軸が20年4~6月期の売上高が前年同期に比べ、どれだけ減ったかを示す。右下に向かうほど「規模が大きく、かつ売上高が大きく蒸発した」ことになる。

 ANAホールディングス(HD)と日本航空(JAL)ともに右下に位置し、8割弱の売り上げが吹き飛んだ。

[画像のクリックで拡大表示]

 ただ、日本の大手2社は海外勢に比べると財務基盤が強固だ。②は縦軸で20年3月末と21年3月末の自己資本比率*1を示している。米デルタ航空は20.8%から0.7%に急低下。米アメリカン航空や仏蘭エールフランスKLMは債務超過*2に陥った。対してANAHDは21年3月末時点で31.4%、国際会計基準(IFRS)*3を採用するJALも45%と高水準だ。コロナ禍後、そろって公募増資を実施したことなども要因にあるが、何よりコロナ禍前は業績が好調で順調に内部留保を積み上げていた。

【用語解説】→*1 自己資本比率

資本金や稼ぎ出した利益の蓄積である利益剰余金などを合算した自己資本が総資産に占める割合。財務の健全性を示す。自己資本と純資産はほぼ同額になる場合が多い。自己資本比率は金融機関が融資の審査をする際に重要視される。数字を高めるには着実に利益を積み上げていくのが一番だが、増資をするなどして自己資本を増やし、借入金の返済を進めていくなどの方法もある。

【用語解説】→*2 債務超過

自己資本(純資産)がマイナスの状態。企業の資産を全て換金しても負債を返しきれない状況を指す。債務超過が続くと、日本では東京証券取引所の上場廃止基準に抵触する可能性もある。

【用語解説】→*3 国際会計基準(IFRS)

企業が決算書などを作る際のルールの一つ。日本では日本基準を使う企業が多いが、国際企業はIFRSや米国会計基準を取り入れることも。ANAHDは日本基準、JALはIFRSだ。違いは様々あるが、航空会社にとって重要なのは機材などのリース債務に関する考え方の違いだ。もしANAHDがIFRSを適用することになると、自己資本比率は見た目上、押し下げられることになる。

 とはいえ、両社の業績の回復スピードは遅い。②の横軸は20年4~6月期と21年4~6月期の最終損益を示している。

 米大手ではデルタ航空とアメリカン航空は21年4~6月期に黒字転換を果たした。「国内線のレジャー需要が既にコロナ禍前の水準に回復した」(デルタ航空)。国土が広い米国は事業規模に占める国内線の割合が大きい。一方、国際線が多くを占める欧州勢は業績回復が進んでいない。

 日本は米・欧の中間で、旅客収入に占める国際線と国内線の比率がおよそ半々だ。ただ、ワクチン接種の出足の遅れや断続的な緊急事態宣言の発出が国内線の回復を遅らせた。