日立製作所の中西宏明元会長は、時代の先を見据え送配電事業に注力。その過程で、国内市場への依存や自前主義などの旧弊を捨て去った。日本企業の低迷は、市場創出を怠った政府だけの責任ではない。

日立製作所の最高経営責任者(CEO)や会長として、様々な経営改革を断行し、6月に他界した中西宏明氏。2つの「退却決断」が、日本の復活にヒントを与えている。
一つは国内主体の送配電事業からの退却だ。CEOだった2012年、送配電事業における富士電機、明電舎との共同出資会社、日本AEパワーシステムズを解散した。一見すると送配電事業の縮小に映るが、実態は逆である。同事業を強化し、世界に打って出ようとしていたが、AEパワーの優先順位は国内事業にあった。共同出資会社であったため、大胆な経営判断ができず、「抜本的に成長戦略を見直す」として解散した。
もう一つは、14年に三菱重工業と共同出資会社を設立し、基幹の火力発電事業を連結対象から外したことだ。当時は日立社員が三菱重工の拠点に移ることなどをネガティブに捉える向きもあった。その後日立は20年に共同出資会社の持ち株を完全売却し、火力発電事業から撤退する。
2つの退却は、送配電事業で世界を攻める布石だった。この土台の上で、15年にはスイス重電大手ABBと送配電事業の合弁会社を設立する。仕上げとして20年に約7400億円でABBの送配電事業を買収した。
中西氏が特に目をつけたのが、ABBが持つ高圧直流送電(HVDC)技術だ。長距離を効率的に送電できる技術で、再エネ導入の拡大に伴い、需給調整や電力系統連系のために世界で需要急増が見込まれる。
実際、日立は欧州を中心に世界各地で受注と納入を重ねている。送配電事業を主力とするエネルギー部門について、21年3月期の関連費用を除く調整後営業利益率は2.6%だったが、26年3月期には12%に達する見込みだ。
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