脱炭素、新エネルギー分野でも成長余地が大きい「未開の地」は残っている。有望なのは日本国内での風力発電や、廃棄物由来、生物由来の燃料などだ。雌伏の時を経て、表舞台に登場した3人の事業家を紹介しよう。(文中敬称略)
JERA執行役員 矢島 聡氏

東京電力で再エネなどを含む国際事業を初期から担当。福島の事故による存続の危機も乗り切り、中部電力との共同出資会社で再エネ部門を率いる。洋上風力発電で世界市場を見据える。
9月中旬の週末、秋田県由利本荘市の海岸。「おはようございます!」。由利本荘市長や地元の女子バスケットボールリーグの選手らに交ざって清掃活動に参加した1人の男がいた。前日に東京から飛行機で秋田入りした矢島聡。東京電力ホールディングスと中部電力が折半出資するJERAの執行役員だ。小雨の降る中、約1時間の清掃に汗を流した。
矢島が地域貢献活動に力を入れるのは、JERAが全国有数の洋上風力の適地である秋田県で、事業展開を狙っているためだ。今年5月、同県の2地域を対象にした国による洋上風力発電事業者の公募でも名乗りを上げた。JERAが注力する再エネ事業で指揮を執る人物が矢島だ。
福島事故で環境一変
米エンロンの経営破綻に伴って2002年に退職し、東京電力に入社した転職組だ。新卒入社した大手商社の丸紅には9年間勤め、主にエネルギー領域のビジネスに携わっていた。
東電と矢島のニーズは合致した。この頃、世界では国境を越えたエネルギーの開発事業が黎明(れいめい)期にあり、東電も国際事業に力を入れようとしたところだったからだ。商社時代、海外事業で培った矢島のノウハウが生かされた。
国際事業部は、海外で火力や原子力発電、国内で再エネに投資していた。この頃、再エネは電力会社で脇役。しかし、「東電は再エネ事業も伸ばす必要があると考えており、度量が大きかった」と矢島は振り返る。東電は02年、欧米で1GW分の陸上風力発電を抱えるユーラスエナジーホールディングスの50%の株式を取得。東電は世界一の風力発電企業をつくる夢もひそかに抱いていた。
東電の国際事業は10年に、その先10年間で1兆円を投資する目標を掲げた。矢島も東電になじみ、海外投資を手掛けるグループのエースになっていた。ところが11年3月、福島第1原子力発電所の事故が起きる。
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