母国開催COP15が転機に

(写真=Bloomberg/Getty Images)
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 本社3階の役員フロアで出迎えてくれたのは、副CEO(最高経営責任者)のマルティン・ノイベルト氏だ。08年に入社した古参の経営幹部であり、同社の苦難の歴史を熟知する。歴史を振り返ってもらうと、「かつては石炭火力発電所も手掛ける古い会社だった」と切り出した。

<span class="fontBold">マルティン・ノイベルト氏</span><br>オーステッド副CEO。1973年生まれ。コンサルティング会社を経て、2008年にオーステッドに入社し、洋上風力発電事業のトップなどを経て現職。(写真=Maya Matsuura)
マルティン・ノイベルト氏
オーステッド副CEO。1973年生まれ。コンサルティング会社を経て、2008年にオーステッドに入社し、洋上風力発電事業のトップなどを経て現職。(写真=Maya Matsuura)

 オーステッドの前身の社名はDONGエナジー。「デンマークのオイル&ガス会社」の頭文字などを並べたものだった。伝統的なインフラ企業であり、世界の石油価格に振り回されるのが経営の常だった。

 転機は09年に訪れた。年末にコペンハーゲンで第15回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP15)が開催され、先進国が気候変動対策として発展途上国に資金援助することが決まった。議論を深める中で大株主のデンマーク政府と共に、脱炭素ビジネスの重要性を強く認識した。

 その試金石となったのが、石炭火力の扱いだ。当時、ドイツで政府の支援を受けながら大規模な石炭火力発電所の建設計画を進めていた。

 COPの議論などを受け時代が変わったことを痛感した経営陣は、建設計画の撤回に踏み切る。その際に、従来は化石燃料が85%、再エネが15%だった売上高の比率を将来的に逆転させる決断を下す。

 再エネの様々な選択肢がある中で、経営陣が選んだのが洋上風力だった。買収先の会社が小規模の洋上風力発電所を建設した実績があり、未成熟の同分野で先行できれば、競争優位に立てると考えた。とはいえ「本当にうまくいくかは分からず、これは大きな賭けだった」とノイベルト副CEOは明かす。

 事業構造改革は、各事業部のエース級の人材を集め、専門部署をつくるところからスタートした。経営陣は、既存の事業を内部から変えたり、全社員を説得したりする前に動いた。新規事業の育成は、スピードと集中が不可欠だと考えたからだ。

 また、自社だけでは新分野を開拓できないことは明白であったため、新分野開拓に協力するサプライヤーを探し回った。その誘いに乗ってきたのが、陸上用の風力発電機で後れを取っていた独シーメンスだ。洋上風力発電を産業化するという両社の思惑が一致し、500基の調達という大型契約を締結した。

 資金不足の問題も克服した。オーステッドは単独で洋上風力発電所に出資するほどの資金力がなかったため、金融機関の説得にも奔走。その結果、同社の戦略に共感したデンマークやオランダ、カナダの年金基金のほか丸紅がプロジェクトへの共同出資に加わった。その丸紅から贈られた扇子を、ノイベルト副CEOは執務室に今も大事に飾っている。

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