エネルギー基本計画の達成には原子力発電の再稼働を急ぐ必要がある。しかし、3分の2が動かず、新増設、リプレースは議論すらできない。人材も技術も時間とともに継承が難しくなる。タブーなき検討は待ったなしだ。

<span class="fontBold">10年以上、計画が止まったままの中国電力・上関原発の建設予定地</span>
10年以上、計画が止まったままの中国電力・上関原発の建設予定地

 「原子炉への注水手段を検討せよ!」。中部電力・浜岡原子力発電所(静岡県御前崎市)の一室にある緊急時対策所。現場の班長が班員に指示を飛ばす。そばでその様子にじっと目を凝らすのは、東京電力ホールディングス(HD)・柏崎刈羽原発(新潟県)や北陸電力・志賀原発(石川県志賀町)の社員だ。

 これは炉心溶融や全電源喪失といった緊急時に、手順通り原発を制御する訓練である。この本番さながらの訓練を北陸電や東電社員が評価。時には疑問点を指摘して議論を深める。逆に中部電が柏崎刈羽に出向いて評価することもある。こうしてお互いに技能を持ち寄り、来るべき再稼働に備える。

操作経験がない作業員

 ここまで徹底するのは現場経験者が次々とリタイアしていくからだ。この原発は停止してから10年がたつ。つまり入社10年目までの社員は実際に原発を操作した経験がない。「再稼働が遅れれば遅れるほど実地での技能継承はやせ細る」(中部電)

 制御室から指示を出す運転員の世代交代も進む。これまで指示を受けていた若手も年齢を重ね、現場の場数を踏まないまま指示を出す側に回る。中国電力の担当者は「現場の経験が乏しい状況は過去にない深刻な課題」と明かす。中国電だけではない。これは全国の原発が抱える頭痛の種だ。

 シミュレーションでは分からないと、中国電では自社の火力発電所に延べ57人の原発要員を派遣。音、熱、振動を体感し、実際に動く機器や計器の動作確認をすることでモチベーションの維持を図っている。

 電力各社が技能の堅持に必死になる中、現場を失望させたのが7月に国が公表した新たなエネルギー基本計画の原案だった。2030年に温暖化ガスを46%減にするという目標を掲げた後、初となるエネ基だったが、電源全体に占める原発の比率については30年度に20~22%と据え置いた。

 原発について「持続的に活用していく」と「可能な限り原発依存度を低減する」という一見相反する両論を併記。その場しのぎとしか思えない玉虫色の決着に電力会社幹部は「針路が見えない」とうなだれる。

 国は50年に向け脱炭素にかじを切り、再エネ拡大に突き進む。だが、季節や天候、昼夜を問わず安定して発電し、電力を供給できるベースロード電源の議論は下火のままだ。

 ベースロードには火力発電所も使えるが脱炭素の機運が盛り上がる中、旗色が悪い。燃料を燃やして出てくる二酸化炭素(CO2)を回収する技術「CCS」もあるが、どれだけ普及するかが見通せない。そもそも化石燃料を使うというだけで批判を受けるご時世となった。そうなると原発利用の再考が必要になる。

 NPO法人の国際環境経済研究所理事で主席研究員の竹内純子氏は、「再エネを最大限活用するのは当然だが、日本の国土や自然条件をみれば国民のコスト負担は相当重くなると懸念される」と指摘。そのうえで「原子力活用を改めて真剣に検討せざるを得ない」と主張する。

 エネ基の公表前には水面下で経済産業省資源エネルギー庁と環境省の激しい攻防があった。「リプレース(原発建て替え)は必ず入れたい」。今春、こうした要求を突き付けた資源エネルギー庁に対し、小泉進次郎大臣が率いる環境省は前向きに取り合おうとはしなかった。

 一部の自民党議員は賛意を示したが、首相官邸は「年内の衆院選を控え、国民受けの悪い原発リプレースは打ち出しにくい」と後ろ向き。当初、エネ基原案に入るはずだった「最大限の活用」の「最大限」もいつしか抜け落ちた。

 電力会社側も脇が甘かった。リプレース論にとどめを刺したのは、東京電力HDの失態だ。柏崎刈羽原発でテロ対策の不備が発覚。自業自得だが、安全が最優先だっただけに、再び霞が関では「物言えば唇寒し」となり、「持続的な活用」と言葉を換えて盛り込むのがやっとだった。

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