全国有数の風力発電の適地とされる秋田県で、建設ラッシュが起こっている。地元自治体は、関連事業への地元企業参画など地域還元を狙う。一方、急変する街の景観に地元の人々は不安を募らせている。

<span class="fontBold">日本海岸沿いに陸上風力が連なり、「風力の街」と化す秋田県。かつて悪者扱いされた風が、地域産業の復興に生かされようとしている</span>(写真=淡路 敏明)
日本海岸沿いに陸上風力が連なり、「風力の街」と化す秋田県。かつて悪者扱いされた風が、地域産業の復興に生かされようとしている(写真=淡路 敏明)

 8月中旬、秋田県能代市。北へ車を走らせていると、日本海岸沿いに南北に広がる緑のじゅうたんが目に飛び込んできた。東西の幅が約1km、南北14kmにわたって連なる松林「風の松原」。面積は東京ドーム163個分。松原として日本最大級だ。

 その「風の松原」に異変が起きている。能代市内に住む60代女性は数年前、風の松原内にある施設に向かう道中、ところどころで黒松が伐採されているのに気付いた。ここは奥まった地域で地元の人でも頻繁に足を運ぶことはない。1年後、再び同じ道を通った。視界に入ったのは見上げる高さの風車だった。

砂防林を伐採して風車建設

 年間を通して偏西風が日本海側に吹き付ける秋田県は国内有数の風力発電の適地とされている。豊かな風況を生かすため、海岸沿いの松原の中に陸上風力が等間隔で立っている。

 緑豊かな「風の松原」は、心を和ませるだけのものではない。約300年前の江戸時代、この地域は見渡す限りの砂丘で、そこから飛んできた砂が民家や農地を埋め尽くした。人々の生活を守るためにつくられ、砂防林としての役割を担ったのが「風の松原」だ。

 砂に植物を植えるのは困難を極めた。根が浅い苗木はすぐに飛ばされる。ぐみの木やハマナス、さらにネムノキを植えたのち、その風下に松苗を植えた。「地域の先人が諦めずに築いてきたのが砂防林。環境に優しい再生可能エネルギーと言いながら、陸上風力は森林伐採を招いている」。地元女性は、かつて秋田杉で栄えた能代市の現状を憂う。

 陸上風力による保安林伐採の影響を訴える人もいる。今年初め、能代市の南部に位置する三種町の海岸近くで、ミニトマトなどを栽培するビニールハウスが強風によって損壊。近くで農家を営む男性は「数年前、陸上風力が建設される際に森林が伐採されたためでないか」と話す。伐採後には若い苗木が植えられたが、以前あった木の高さまでに育つには数十年はかかる。

 行政上、「保安林」に含まれる砂防林。保安林は国もしくは都道府県が指定し、伐採が規制されている。ところが、風力発電や太陽光発電といった再エネの開発で近年は「公益上の理由」による指定解除が増加。林野庁のホームページには、再エネの開発のための解除事務の迅速化を図るマニュアルさえ存在する。環境エネルギー政策研究所の山下紀明主任研究員は「当面、指定解除の流れは止まらない」と話す。

 能代市が陸上風力など再エネを推進するのは、歯止めが利かない人口減少や産業の衰退が背景にある。

 1990年代に80億円近くあった税収は、近年、60億円を下回ることもある。人口も80年の約7万6000人(合併前の旧能代市と旧二ツ井町の数値を合計)から減少傾向が続き、現在は約5万人だ。「かつては活気があった、能代市役所からほど近い商店街は、週末でもシャッター街。教科書にも紹介されたことがあるほど」と地元男性は話す。

 アクセスの悪さも足かせになった。東北地方最大の都市、仙台市まで公共交通機関で最低4時間、乗り継いで東京までは5時間──。都市部から人を呼び込む観光資源は乏しく、戦後栄えた木材産業も担い手が不足する。木材産業の関連出荷額は30年ほどで7分の1に減少した。「これだけのハンディキャップがある中で、能代ならではの産業をつくらなければいけなかった」と、斉藤滋宣市長は産業が乏しい能代市の現状を説明する。

 そんな能代市が、市の発展のため掲げた将来像が「エネルギーのまち」だった。2003年に初の「能代市新エネルギービジョン」を策定してから、全国でも早い時期に陸上風力の整備を推進。00年代前半に第1号が稼働し、今では総出力が約6万2660キロワット(kW)となる47基まで増えた。28年には約3倍となる19万5660kW分を整備する計画だ。

続きを読む 2/6 再エネの主役は洋上風力に

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