この記事は日経ビジネス電子版に『スーパーシティの光と影』として連載した記事を再編集して雑誌『日経ビジネス』9月13日号に掲載するものです。
トヨタ自動車が2020年にぶち上げた未来都市構想に地元は沸き立った。ところが、地元の住民との分断を不安視する声も上がり始めた。住民との向き合い方が都市DXの成否を左右する。
「私たちと一緒にこのプロジェクトに参画することに関心がある方、将来の暮らしを改善したいと思われている方は、どなたでも歓迎する予定です」
トヨタ自動車が東富士工場(静岡県裾野市)跡地で開発を進める未来都市の「Woven City(ウーブン・シティ)」。その計画を初めて明らかにした2020年1月、米国ラスベガスで開催された「CES 2020」の会場で、豊田章男社長は世界に向けてプロジェクトへの参画をこう呼び掛けた。

「富士山」の語呂合わせで21年の2月23日に地鎮祭を開いたトヨタ。夢の未来都市の開発予定地では今、着々と工場の取り壊し作業が進められている。平日の午後に周囲を走る幹線道路沿いを歩いてみたが、歩行者とすれ違うことはほとんどなかった。現在の様子からは、ここが本当に世界屈指の最先端都市になるとは想像がつかない。

約70ヘクタールの工場跡地に建設されるウーブン・シティには、2000人程度の住民が入居すると想定されている。国内外から移り住んでくる住民を対象に、自動運転やロボットなどの最先端技術を導入した実証実験を幾つも展開していく予定だ。
トヨタの工場撤退で住民が多数転出し、税収も一気に落ち込んだ裾野市。20年にウーブン・シティの計画が発表され、一転して地元は沸き立った。日本の社会や産業の先端を走る都市の誕生という触れ込みに、いやが上にも期待が高まった。
そして今、地元の一部からは不安の声も上がり始めた。「ウーブン・シティが地域住民と隔絶された『天空の城』にならないか不安だ」。地元で街づくり活動に取り組んできた一般社団法人南富士山シティの鈴木大悟代表理事はこう漏らす。裾野市でも、地域の高齢化は例外ではない。「IT(情報技術)意識の高い新しい住民と前向きにコミュニケーションを取っていけるのだろうか」という不安があるのだという。
裾野市はトヨタと連携しながら周辺地域一体の街づくりを進めていく考えを示しているが、詳細は明らかになっていない。いまだ謎の多いウーブン・シティ。関係者には厳重なかん口令が敷かれ、地域住民が街の将来像をあずかり知ることができない状況が続いていることも、不安を呼ぶ一因だ。
この記事は会員登録で続きをご覧いただけます
残り3741文字 / 全文4833文字
-
「おすすめ」月額プランは初月無料
今すぐ会員登録(無料・有料) -
会員の方はこちら
ログイン
日経ビジネス電子版有料会員なら
人気コラム、特集…すべての記事が読み放題
ウェビナー日経ビジネスLIVEにも参加し放題
バックナンバー11年分が読み放題
この記事はシリーズ「スーパーシティ 都市DXの光と影」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。
Powered by リゾーム?