仏教界から乗馬サービスまで、様々な分野に広がる非常識戦略の実践企業。近年のクラフトコーラブームの火付け役、伊良(いよし)コーラを提供するGRAND GIFT(グランギフト、東京・新宿、小林隆英代表)も、トップの揺るぎない信念の下、独自の出店戦術で成果を上げている企業だ。

<span class="fontBold">伊良コーラ渋谷店に立つグランギフトの小林代表(左)。自らレシピを開発したクラフトコーラ(右)でキャットストリートに出店した</span>
伊良コーラ渋谷店に立つグランギフトの小林代表(左)。自らレシピを開発したクラフトコーラ(右)でキャットストリートに出店した

 レモン、ライムなどのかんきつ類やシナモン、ナツメグなど12種類以上のスパイスを調合した「クラフトコーラ」を提供する同社は、「コロナ禍の今こそ普段なら出店が難しい好立地に店を構えられる好機」と位置付けている。実際、緊急事態宣言真っただ中の21年4月、原宿に近い若者向けブランド街、キャットストリートに2店舗目を開いた。

 「キャットストリートはゴーストタウンのようになっていた」と小林氏は振り返る。多くの店舗のガラス窓には「閉店のお知らせ」が貼られ、コロナ禍が深刻化して以来、新規の出店もなく、“死んだ街”といわれることすらあった。「こんなタイミングで、しかもキャットストリートに新店舗を出すなんて」。出店に当たって、周囲からこんな声も少なからず聞こえてきたという。

 だが、小林氏は「普段は空くことのない好立地に出店できる今は、千載一遇のチャンス」と考えた。その決断は今のところ、成功したと言える。

 いい悪いは別にしてキャットストリートの人出は最悪期から回復。カワセミのカラフルなネオンがトレードマークの伊良コーラ渋谷店(東京・渋谷)には、多くの人が吸い込まれていく。

 店内ではテークアウトできるクラフトコーラのほか、瓶詰のシロップなども販売。客層は幅広く、「(SNSの)TikTokに上げている人を見て、店内がかわいくて来た」(20代アパレル業女性)という若年層客もいれば、「どんな味か興味があった」と話す50代男性客もいる。逆風下での好立地出店が知名度を高め、顧客の裾野を広げたことは間違いなさそうだ。

新時代には新しい方法が必要

 経営環境が急変する中、従来の常識を否定する戦略が注目を浴びるのは日本だけの現象ではない。コンサルティング会社、シナプス(東京・中央)の家弓正彦社長は「米国では様々なマーケティングの新潮流が生まれつつある」と話す。

 例えば、オーソドックスなマーケティングでは、メインユーザーに調査をしてニーズを満たす機能を企画するのが基本。だが米アップルなどが近年活用しているのは、非メインのユーザーへの調査だ。普段商品と縁が薄い層にあえて焦点を当てて要望を聞くことで、開発陣やヘビーユーザーには見えない画期的な機能を考案する試みだ。

 コロナ禍や技術革新によって世界の経営環境は着実に変貌を遂げつつある。新しい時代に優位に立つには、古いやり方を捨て、新しいやり方をいち早く身に付けることが欠かせない。「儲かる非常識」を研究することは、そのための最初のステップとなる。

COLUMN

串カツ田中
一番人気メニューは「家庭用フライヤー」?
<span class="fontBold">串カツ田中HDの坂本部長は、食材と家電の組み合わせが注目された要因だったのではないかと語る</span>
串カツ田中HDの坂本部長は、食材と家電の組み合わせが注目された要因だったのではないかと語る

 新型コロナウイルス禍の影響が色濃い外食において、業界大手が力を注ぐのがテークアウト、デリバリー、そして冷凍食品やミールキットなどをはじめとする通販事業だ。そんな中、串カツ居酒屋などを運営する串カツ田中ホールディングスが挑戦した非常識が「卓上フライヤーと串カツのセット販売」。家電と冷凍の串カツをセットで売るという極めて珍しい取り組みだ。

 1度目の発売は2021年7月1日。卓上フライヤーと串カツの10~50本セットが9980~1万2980円で、100台が発売され、5分足らずで完売した。7月末には500台のフライヤーを仕入れて再発売したが、これも2週間足らずで在庫がなくなったという。耐久消費財である家電を外食企業が販売してこれほどの注目を集めることは異例だ。

 この卓上フライヤー、「串カツ田中オリジナル」とアピールされ、側面には「名物串カツ田中大阪伝統の味 ソース二度づけ禁止」のシールとECサイトのQRコード、そして上蓋にロゴマークのシールが貼付されている。

 フライヤーは「ジェネリック家電」で知られる山善と調理家電などを手掛ける象印マホービンから調達した。象印の製品は01年からモデルチェンジがなされていないロングセラー商品だ。

 象印マホービンによれば、コロナ禍の巣ごもり消費の影響によって20年度の電気フライヤーの出荷数は前年度比約4割増というものの、串カツ田中とのコラボレーションという形で、既存製品がこれほどの人気を集めたことは異例の事態だろう。

 「一定の認知度のある飲食ブランドとして、食材と家電を組み合わせることで『使い方の提案』ができたことが注目を集められた要因かもしれない」──。串カツ田中ホールディングスの坂本壽男・取締役経営戦略部長は、フライヤーの思いがけないヒットの理由をこう分析する。

冷凍串カツ、事業の柱に

 そもそもなぜ、串カツ田中は家電と冷凍食品のセット販売を思いついたのか。それは坂本部長のある経験がきっかけだった。

 坂本部長は20年5月中旬に卓上で使える小型の焼き鳥焼き器を購入して、家族で焼き鳥を楽しんでいた。そんな中、子供たちが夢中になって串を焼く姿を見て「この『コト消費』は串カツにも応用できるのではないか」と、フライヤーと串カツをセットにして売ることを思いついたという。

 串カツ田中は今後もフライヤーの販売を拡大することによって、冷凍串カツの需要増を狙っている。コロナ禍によって店舗営業がままならない期間が1年半近く続く中、冷凍食品事業を新たな収益の柱とすることも考えているという。

日経ビジネス2021年9月6日号 38~41ページより

この記事はシリーズ「普通じゃ売れない 儲かる非常識」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。