この記事は日経ビジネス電子版に『仏教界騒然 京都発「お寺とホテルのコラボ」はなぜ成功したのか』(8月31日)として配信した記事などを再編集して雑誌『日経ビジネス』9月6日号に掲載するものです

様々な業界で出現する非常識戦略だが、実践の際には注意も必要だ。従来のやり方を否定する手法も多く、無理に進めると社内外で軋轢(あつれき)を生む。非常識戦略の実践企業に、“型破りな手法”をうまく導入するためのヒントを探る。

 「歴史を振り返っても、製造手法から販売方法まで、のちに画期的といわれる企業戦略ほど、斬新であるがゆえに当初は非常識と指摘されることが多い」。マーケティングを専門にする神奈川大学経営学部国際経営学科の大崎孝徳教授はこう話す。

 大崎教授が例として挙げるのが、フジパンの食パン「本仕込」。1993年に発売された商品だ。それまで各社は「やわらかさ」を目指して商品を開発していたが、フジパンは「もっちり感」を追求し他社との差異化に成功。今では他社からも同様の商品が多く出ているが、最初は異端の製法だった。

 サントリービールのザ・プレミアム・モルツに代表される「いいものをより高く売る」戦略も今では当たり前の手法だが、「いいものを安く売る」ことが企業の最重要課題と思われていた時代には、プレミアムビールは典型的なニッチ市場だった。「非常識だと思われた戦略が、時代の変化に伴い常識となることは珍しくない」と大崎教授は話す。

トップの信念なしに導入困難

 だからといって、現実に非常識戦略を他社に先駆けて実践するのは、そう簡単なことではない。従来のやり方を否定するとあって、無理に進めると社内外で軋轢を生みかねないからだ。「それまで普通の経営をしてきた会社が、型破りな手法を導入するには、トップの強い信念と、社員の並々ならぬチャレンジ精神が欠かせない」と大崎教授は強調する。

 2020年秋、京都・祇園から歩ける距離に誕生したホテル「三井ガーデンホテル京都河原町浄教寺」(京都市)はまさに、当事者の強い信念によって実現した“非常識宿泊施設”。最大の特徴は、約500年の歴史を持つ浄教寺と一体化していることだ。

<span class="fontBold">全国でも珍しいお寺と一体になったホテルの外観</span>
全国でも珍しいお寺と一体になったホテルの外観

 宿泊客は早朝から始まる「お勤め体験」に参加後(要予約)、きらびやかな本堂の内観に加え、平清盛の長男・重盛の像や江戸時代の天明の大火で焼けた鬼瓦など歴史的な保管物を自由に見学できる。一般の観光客に加え、仕事前に気持ちを引き締めたいと考える出張客などもいるという。もちろん、新型コロナウイルス禍の収束後は外国人観光客もターゲットだ。

 全国初とみられるこの「お寺との完全一体型ホテル」は、とりわけ仏教界における様々な軋轢を乗り越えて誕生した。

 光山公毅住職はもともと新生銀行に勤務。先代住職から浄教寺の後を継いだのは17年のことだ。当時の浄教寺は、築200年近くたった旧本堂の改修が急務だった。それまで改築を繰り返し、バリアフリー化もされていなかった。限られた資金で、寺を大規模に再建する手段として光山住職が考えたのが「ホテルとの一体化」だったわけだ。

<span class="fontBold">ホテルのロビーにある小窓から浄教寺の本堂が見える</span>
ホテルのロビーにある小窓から浄教寺の本堂が見える

 僧侶が寺の運営とは別にビジネスをするという前例がないわけではないが、歴史ある京都では「事業と寺は分けて考えるべき」との考えも根強い。プロジェクトについて「寺の財務状況が厳しくてもビジネスに直結させるべきではない」との声もあった。

 それでも、100年先の仏教界のためにも時代に合った寺が必要だと考えた光山住職は、銀行などの人脈も活用し、ついに事業パートナーを見つける。それが「三井ガーデンホテル」ブランドを手掛ける三井不動産だった。

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