この記事は日経ビジネス電子版に『価格もメニューも不統一 大阪王将の儲かる新チェーンストア理論』(8月27日)として配信した記事などを再編集して雑誌『日経ビジネス』9月6日号に掲載するものです

前から根付く「経営の定石」とは異なる方法で成果を上げる企業が増えている。日本社会や市場の変化で、儲けの方程式が色あせてきたことが背景にある。様々な業界で注目され始めている「儲かる非常識」の一部を紹介する。

 全店が同じメニューで同じ価格、同じオペレーション──。外食や物販を問わず、チェーン店経営の言わずと知れた常識だ。全国どこでも「同じ看板、同じサービス」を提供することで効率化を図り、よりよい商品をより安く提供する狙いがある。だが、このチェーン店経営の常識を否定する動きが、新型コロナウイルス禍に苦しむ外食産業で目立ち始めている。その代表が、全国に354店舗(2021年5月末)を持つ中華チェーン大手の大阪王将だ。

 8月中旬、東京都内にある同社の2つの店舗を訪れた。世田谷区の小田急祖師ヶ谷大蔵駅前の店と、荒川区のJR三河島駅前の店。ともに外観は変わらず、「街の中華屋」というイメージのデザインだ。内装も、黄色と赤を基調としたインテリアに、壁一面にメニューが張られているなど大きな違いはない。

「看板」は同じ、「価格」は別

<span class="fontBold">大阪王将のメニューは、地域の事情に応じてラインアップや価格が設定されており、店舗ごとに商品価格が異なるケースも多い</span>
大阪王将のメニューは、地域の事情に応じてラインアップや価格が設定されており、店舗ごとに商品価格が異なるケースも多い
[画像のクリックで拡大表示]

 ところがメニューを比べると、ところどころ値段が異なる。人気メニューの一つ「餃子・炒飯定食」の場合、祖師谷大蔵店は税込み968円なのに対し、三河島店は同960円と8円安い。麺類も「炒め焼きそば」は前者が760円、後者は680円と80円もの開きがある。両店舗ともにメニューは80種類前後だが、価格が同じもののほうがむしろ少ない印象だ。

 「今は、価格は乗降客数、周辺地域の平均時給、年齢層、競合店の価格設定など地域特性を調査した上で店舗ごとに決めている」。大阪王将で加盟店の営業支援などを担当している竹本光明取締役執行役員はこう話す。

 大阪王将はコロナ禍以前から、それぞれの地域特性に合わせ店舗を運営する「マイクロマネジメント」の導入を開始。外食大手は定期的にメニューを全国統一で改定することが多く、大阪王将でもかつては6カ月ごとにグランドメニューをリニューアルしていたが、これについても廃止した。

 「画一化」というチェーン店経営の骨格を見直し始めたのは、かつての「定石」の威力が色あせてきたからにほかならない。

 米国で生まれて日本に戦後導入され、中内㓛氏や伊藤雅俊氏など多くの著名経営者が実践してきたチェーンストア理論。その重要な要素である画一化は、国土が均一に発展し、消費者の嗜好も似通っているような状況ではより威力を発揮する。だが、都会と地方、あるいは都会の中でもエリアごとに住民の所得や消費傾向が異なるような場合では話は別だ。

 例えば、価格を統一すれば、あるエリアでは高過ぎ、別のエリアでは安過ぎるといった状況が生まれかねない。そうなれば前者では販売不振、後者では儲けられたはずの利益を失う機会損失が発生する。そうした画一化のデメリットが時代の変化によってメリットを上回るようになったのなら、かつての常識であろうとメスを入れるのは当然ともいえる。

 「旧来のチェーン店的発想による大量出店ではなく、飲食店は地域の実情に合わせ『個店』のようにマネジメントすることが重要だ」。大阪王将などの飲食店や冷凍食品事業を手掛けるイートアンドホールディングス(HD)の文野直樹会長CEO(最高経営責任者)はこう話す。

 同社のマイクロマネジメントの柱の一つは「地域特性に合わせた価格設定」だが、店舗によってはメニュー構成やレイアウトも大きく変わるという。

 前述の2つの店舗で説明すると、祖師谷大蔵店の看板定食は「ウルトラ定食」。餃子とオムライスなどをワンプレートにした「オムライセブンセット」や玉子炒飯とホイコーローを合わせた「タロウセット」などが並ぶ。祖師谷大蔵がウルトラマンで知られる「円谷プロダクション」発祥の地であることにちなんだ商品だ。これに対して、三河島店の「名物メニュー」は焼肉定食となっている。

<span class="fontBold">大阪王将の各店舗にはオリジナルメニューがある。祖師谷大蔵店の名物は「祖師谷ウルトラセット」(上)</span>
大阪王将の各店舗にはオリジナルメニューがある。祖師谷大蔵店の名物は「祖師谷ウルトラセット」(上)

 また、中四国地域のある店舗では、ハーフサイズを前面に押し出したメニュー構成にしている。というのも、 地方のロードサイドでは今や、ファミリー層よりもシニア客が主要な顧客となる店舗が少なくない。通常サイズの料理を食べきれない顧客も多く、小さいサイズを売り出したほうが喜ばれるエリアもあるのだ。

チェーン店と個性を両立

<span class="fontBold">「チェーン店の安心感とは別に個店らしい独自性も重要」と竹本氏</span>
「チェーン店の安心感とは別に個店らしい独自性も重要」と竹本氏

 もっとも、一連の戦略は度が過ぎると、大阪王将のブランドイメージが弱まるリスクもある。このため、19年のマイクロマネジメント開始以降、竹本氏や各地域の担当者は全国の約300店舗の加盟店オーナーらの元を行脚。中には、必要以上に「メニューにアレンジを加えたい」という声や「価格を上げたい」といった要望も上がったが、協議を重ね「個店らしさを持たせつつ、チェーン店としての安心感も維持する」という課題に取り組んだ。

 一連の取り組みは、数字にも表れている。コロナ禍の影響がある中でも、イートアンドHDの大阪王将を含む外食事業は、21年3~5月期の営業利益が3900万円と黒字化を達成。大阪王将の既存店売上高は「19年同月比で90%近くまで回復してきている」(竹本氏)。繁華街の飲食店は人流が減った結果、活気をなくし、郊外でも大手を含め不採算店舗の大量閉店が続く。そんな逆風の中では、十分健闘しているといっていい。

 「外食とは本来、個店ごとの利益を積み重ねることこそが王道。1店舗ずつ丁寧に経営することが、コロナ後はますます重要になる」。画一化の見直しがコロナ後の外食における新潮流となる可能性をこう示唆する文野会長CEO。実際、チェーン店の間では、文野会長と同じ認識を持つ企業が増えている。

 ラーメンチェーン「らぁ麺はやし田」やワインバル、居酒屋などを運営しているINGS(東京・新宿)。21年8月時点でラーメンチェーンは直営店が18店舗、フランチャイズ(FC)チェーンが27店舗あるが、店名や店の看板すら統一されていない。

 「プロデュース店舗」と呼ぶFC店では、店名の設定はオーナーの裁量に任されている。「はやし田」らしさを見せない店舗設計にしてもいいし、メニューも自由に決められる。統一ルールは、ラーメンに使う麺、かえし、スープは本部から仕入れるという点のみだ。

チェーン店のデメリット

<span class="fontBold">INGSのラーメン業態「らぁ麺はやし田」とプロデュース店(FC店)の「麺処 かず屋」。麺、かえし、スープは共通のものを使用するが、店名やメニュー構成、食器など店舗ごとの独自色が強い</span>
INGSのラーメン業態「らぁ麺はやし田」とプロデュース店(FC店)の「麺処 かず屋」。麺、かえし、スープは共通のものを使用するが、店名やメニュー構成、食器など店舗ごとの独自色が強い

 はやし田の本店は新宿にある「らぁ麺はやし田新宿店」。これに対し、例えばプロデュース店舗の一つが、東京都調布市の京王仙川駅前にある「麺処 かず屋」だ。看板メニューこそ「特製醤油らぁ麺」で同じだが、値段は本店が税込1000円なのに対し、仙川の店舗は同980円と微妙に異なる。トッピングも味玉やチャーシューはそれぞれ独自のものを使っている。外観や内装、トッピングを本店のそれと変えることで「全くプロデュース店として認知されていない店舗もある」(加盟店開発部の三輪享平マネージャー)という。

 INGSが画一化戦略を採らない理由は、各店舗を地域特性に応じて最適化することだけではない。「ラーメンファンは、『本店』が存在するとそこを目指す傾向がある。チェーン店であると知られないほうが有利に働く場合が多い」。塚本一宏取締役はこう説明する。

 同社もまたコロナ禍で奮闘中。21年8月期も黒字の見込みの上、加盟店は増加傾向にある。3年以内に直営・プロデュース店を100店舗まで増やすことが当面の目標だ。

 コロナ禍で経済の混乱が続く中、イートアンドHDやINGSのように、これまでNGとされてきた戦略をあえて実践する企業が増えている。背景にあるのは、日本社会や顧客意識の急速な変化だ。環境が大きく変わり、それまでの儲けの方程式が「危険な定石」に変わり、常識破りの手法が利益の源泉になりつつある業界もあるのだ。

 チェーン店経営における画一化の否定は、そんな「儲かる非常識」のほんの一例だ。


続きを読む 2/6 新製品はなるべく出さない

この記事は会員登録で続きをご覧いただけます

残り9165文字 / 全文12917文字

日経ビジネス電子版有料会員になると…

特集、人気コラムなどすべてのコンテンツが読み放題

ウェビナー【日経ビジネスLIVE】にも参加し放題

日経ビジネス最新号、10年分のバックナンバーが読み放題

この記事はシリーズ「普通じゃ売れない 儲かる非常識」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。

【無料ウェビナーのご案内】
ZOZO NEXT 金山CEO、
フューチャリスト尾原氏ら登壇!

次世代DX経営と若手人材創出を徹底議論

■テーマ
次世代DX経営が企業競争力を決める ~若手リーダーの創出が企業成長のカギ~

■開催概要
日時:2021年12月13日(月)~14日(火)、合計4セッション
講師:ZOZO NEXT 金山裕樹・代表取締役CEO、フューチャリスト 尾原和啓氏ほか

■パートナー
インテル

■受講料
無料、事前登録制(先着順)

>>詳細・申し込みは以下の記事をご覧ください。
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00396/112600001/