男女格差の解決だけでなく、LGBTQ+へ目を向けることも欠かせない。事業活動の各段階で偏見をなくせば、組織の力の底上げになるからだ。イノベーションの源泉にするため、新しい時代を見据えた変革が求められる。

 「男性、女性といった二者択一の概念は古くなりつつある。性はグラデーション」。こう話すのは、多様性や不平等の解消に力を入れる大手監査法人グループEYジャパンの貴田守亮会長兼CEO(最高経営責任者)だ。貴田氏自身もLGBTQ+(性的少数者)当事者で、ゲイであることをカミングアウトしている。その過程で葛藤もあった。「当事者は絶えず出会った人に打ち明けるかどうかを悩み、大きなストレスを感じている」と言う。

 ゲイやレズビアン、トランスジェンダー。こうしたLGBTQ+の割合はおよそ10人に1人といわれ、左利きの人と同程度。当たり前で、そして普通の存在にもかかわらず、理解されずに周囲の目に苦しんできた人も少なくない。

<span class="fontBold">EYジャパンの貴田守亮会長兼CEOは、「EYが社会全体を変える触媒のような存在を目指したい」と話す</span>(写真=陶山 勉)
EYジャパンの貴田守亮会長兼CEOは、「EYが社会全体を変える触媒のような存在を目指したい」と話す(写真=陶山 勉)

 ただ、今は企業を中心にLGBTQ+を含め様々な人が働きやすいよう職場・環境づくりの改善を目指す動きも広がっている。なぜこうしたマイノリティーに目を向ける必要があるのか。「開発や製造など事業活動の上流分野でも、女性やLGBTQ+の多様な視点が入ることでサービスや商品は大きく変わるのではないか」と貴田氏は言う。

 企業は、価値観をシフトチェンジするチャンスを捉えられるのか。PART2では性的少数者を取り巻く「ジェンダー革命」を見ていこう。

宇多田ヒカルさんの公表

 現状の日本では、男性と女性が結婚して子どもを産むのが「標準的な世帯」であるという考え方が根付いている。それでもジェンダーを超えた洋服や化粧品があるように、性別をグラデーションとして捉える考え方が広がっている。

 こうした性のグラデーションを構成するのが4つの要素だ。

(写真=Tunatura/Getty Images)
(写真=Tunatura/Getty Images)
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 ①生物学的な体のつくりをいう「体の性」②自分自身が性別をどのように認識しているかを指す「心の性(自認する性)」③恋愛などの対象となる「好きになる性」④服装や振る舞いなどを意味する「表現する性」──だ。例えばレズビアンであれば心の性は女性、好きになる性が女性となる。

 これまで性的少数者の表現はレズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの頭文字を取った「LGBT」という言葉で普及していた。最近ではセクシュアリティーの考えはさらに多様化している。

 日本でも様々な性への理解が広がりつつある。そのきっかけは、今年6月、アーティストの宇多田ヒカルさんが「ノンバイナリー」であることをインスタグラム上で公表したことだろう。

 ノンバイナリーは心の性や性表現において、男性・女性といった区別にとらわれていない人を指す。他にも心の性と好きになる性の区別がない、または定まっていないクエスチョニングや日によって心の性が異なる、好きになる性が変わるといった人など、多様な当事者がいる。こうした当事者たちが声をあげているにもかかわらず、社会の仕組みや環境がまだ変化に追いついていない。

 LGBTQ+の就職支援事業を展開するJobRainbow(ジョブレインボー、東京・渋谷)がLGBTQ+の当事者約200人を対象に「企業に取り組んでほしいこと」をオンライン調査したところ、トランスジェンダーからは「性自認通り使えたり、誰でも使えたりするトイレや、更衣室を整えてほしい」という声が最も多かった。

 多様な性を受け入れる、そんな基盤をつくるにはどうすればいいのか。トランスジェンダーが悩みを抱えるトイレの現場でも変革は起きつつある。

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