女性の経済的自立が進まず、貧困と自殺が深刻化している。「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきだ」との価値観が招いた悲劇だ。経済界・労働界・行政に残る因習を一掃せねばならない。

 電話ブースやパソコンが並ぶビルの一室で、相談員たちが人々の苦しみと向き合っている。通話やチャットでひっきりなしに届く「死にたい」「消えたい」などのメッセージは、日本社会が抱える苦悩の深さを物語る。

<span class="fontBold">ライフリンクの職員が電話で「死にたい」と訴える人々の相談に乗っている</span>
ライフリンクの職員が電話で「死にたい」と訴える人々の相談に乗っている

 ここは東京・千代田区にある自殺相談窓口。相談業務を担っているのはNPO法人「自殺対策支援センター ライフリンク」である。代表を務める清水康之氏は、「自殺で亡くなった人は一般的に複数の課題を抱えている」と切り出した。

 失業し、生活苦に陥り、家族関係が悪化し、精神的に追い詰められて──という具合に平均で4つの課題が重なって自殺に至るという。「コロナ禍で課題が積み上がっていくスピードが速くなった」と清水氏は実感している。

11年ぶりに自殺者が増加

 様々な課題を抱えた人たちの中でも、コロナ禍は特に女性を追い詰めている。警察庁によると2020年に男性の自殺者は前年を下回ったのに対して、女性が増加し、差し引きで912人多い2万1081人となった。リーマン・ショック後の09年以来、日本の自殺者数は11年ぶりに増加に転じてしまった。

コロナ禍で女性の自殺者が増えた
●自殺者数の前年同月差
<span class="fontSizeL">コロナ禍で女性の自殺者が増えた</span><br><span class="fontSizeS">●自殺者数の前年同月差</span>
注:警察庁調べ。2020年4〜12月は確定値、21年1〜7月は7月末の速報値

 21年に入ってからも女性自殺者の増加基調が続く。警察庁の集計では、6月まで毎月のように前年同月を上回った。

 清水氏は「コロナ禍で保育所に子どもを預けられなくなったり、介護で親族の助けを借りづらくなったりして、負担が増した女性が多い」と話す。雇い止めに遭った女性も多いという。総務省の労働力調査によると、コロナ禍が直撃した飲食業や宿泊業、小売業では多くの女性が職場を離れた。

 「ドメスティックバイオレンス(DV)を受けているとの訴えも多数寄せられている」(清水氏)。全国の配偶者暴力相談支援センターなどへの相談件数が増加しており、その多くは夫からDVを受けている女性からの悲痛な相談だ。緊急事態宣言で夫が家にいる時間が増えた影響とみられる。

 「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」という価値観が日本社会の隅々に浸透している。この固定的な性別役割分担意識が悲劇を生む。

 家庭を守るのは女性の役割だとすると、コロナ禍で周囲の助けを借りられなくなった女性に育児や介護の負担が一層重くのしかかる。外で仕事をするにも、家庭を長時間留守にできないので、レストランやホテル、スーパーといった自宅近くの職場でパートタイム労働者などとして働くことになる。そのためコロナ禍で飲食業や宿泊業、小売業が低迷すると、雇用調整のしわ寄せが主に女性にいく。

 女性たちの経済的な自立は容易ではなく、緊急事態宣言で自宅にいる夫からDVを受けていても、逃げ出すことに二の足を踏む。コロナ禍に伴う自殺者の増加は、多くの女性たちが依然として家庭に縛り付けられているという事実の反映でもあるわけだ。

 日本の性別役割分担意識は欧州諸国と比べても強い。内閣府が20~21年に実施した「少子化社会に関する国際意識調査」によると、「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」という考え方に「反対」する日本人の割合は56.9%だった(「どちらかといえば反対」を含む)。過半数に達しており、一見すると反対者は多いように見える。だが、同時に調査したドイツの63.5%、フランスの75.7%、スウェーデンの95.3%を下回っており、日本は最低の水準だ。

日本人男性は家事に協力しない
●妻を100とした場合の夫の家事・育児時間
<span class="fontSizeL">日本人男性は家事に協力しない</span><br><span class="fontSizeS">●妻を100とした場合の夫の家事・育児時間</span>
注:内閣府の令和2年版「男女共同参画白書」のデータを基に編集部で計算
(写真=PIXTA)
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