この記事は日経ビジネス電子版に『創業104年のTOTO、歴代トップが受け継ぐ初代社長からの手紙』(8月11日)、『自己都合退職は53年で3人、「飛び込み営業禁止」の保険代理店』(8月12日)として配信した記事を再編集して雑誌『日経ビジネス』8月16日号に掲載するものです

創業者の思いを伝え続ける企業もあれば、日々社風を変え続ける企業もある。いかにして良い社風を生み出し、維持していくのか。100年超の歴史を持つご長寿企業に、良い社風の極意を学ぶ。

<span class="fontBold">TOTO初代社長(中央のパネル)の言葉を引き継いだ17代目の清田徳明社長</span>
TOTO初代社長(中央のパネル)の言葉を引き継いだ17代目の清田徳明社長

 1通の手紙が、その後100年以上続く企業の社風を形づくった。2020年にTOTOの17代目トップに就いた清田徳明社長は、今年4月に示した新たな中期経営計画の資料の冒頭に、その手紙の文言を配置した。

 「どうしても親切が第一」「良品の供給、需要家の満足が掴むべき実体です」「利益という影を追う人が世の中には多い」──。

 これらの言葉はTOTO初代社長の大倉和親氏が後継者の2代目社長に宛てた手紙に書かれたものだ(文面は以下)。実物は現存していないが、1917年創業のTOTOの歴代トップは100年以上もの間、この言葉を念頭に置いて経営のかじを取り続けた。

<span class="fontBold">TOTO初代社長の大倉和親氏が2代目社長に送った言葉</span>
TOTO初代社長の大倉和親氏が2代目社長に送った言葉

 「初代が残した手紙の存在や内容は歴代社長だけでなく、社員全員が知っている。OBやOG、そしてすべての社員が私の立ち振る舞いを見ている。独善的になっていないか、常に自問自答している」と清田社長は語る。

 企業の目的は利益の追求にある。だが利益だけを追い続けると、その実体を捉えきれずに企業の寿命も尽きてしまう。「私の代で結果が出なくてもよい。現時点の舞台回しを評価するのは後世のお客様だ」(清田社長)。こうした声は、清田氏だけが発しているわけではない。前社長の喜多村円会長も、社長時代の決算会見などでは「今の利益は先代や先々代がまいた種があったから」という言葉を何度も口にしていた。

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