この記事は日経ビジネス電子版に『稲盛和夫氏創業の京セラも悩む、「社風」ってそもそも何だ?』(8月10日)として配信した記事を再編集して雑誌『日経ビジネス』8月16日号に掲載するものです。

大企業が社風や組織風土の改革・浸透に乗り出している。経営トップ自らが音頭を取り、企業全体の競争力向上を狙う。背景にあるのが、これまでの価値観が通用しなくなるという危機感だ。

<span class="fontBold">独自の社風を強みにしてきた京セラも、新規事業のアイデア大会(右)など、社風改革に動き出している</span>(写真=左:アフロ)
独自の社風を強みにしてきた京セラも、新規事業のアイデア大会(右)など、社風改革に動き出している(写真=左:アフロ)

 稲盛和夫氏が1959年に創業した京セラ。「人間として何が正しいのか」「人間は何のために生きるのか」という根本的な問いに真正面から向き合い、人間性や社会貢献を追求する「フィロソフィ」と呼ぶ独自の経営哲学をベースに、小集団で部門別採算管理を徹底する「アメーバ経営」などの活動を推進。現場が主役となり、自発的にチャレンジする社風を醸成してきた。

 フィロソフィの信奉者は国内外に多数存在する。36年にわたって活動した「盛和塾」は、2019年の終了時点で国内56拠点、海外48拠点となり、塾生数は約1万5000人に上った。解散した今なお、実践する経営者は後を絶たない。

 だが、その「総本山」ともいえる京セラの谷本秀夫社長は、17年の経営トップ就任当初、真逆の危機感を抱いていた。「チャレンジ精神が現場から感じられなくなっている」

アメーバ経営で硬直化

<span class="fontBold">谷本秀夫社長は、「若手が意見を言える雰囲気が出てきた」と、改革の成果を口にする</span>
谷本秀夫社長は、「若手が意見を言える雰囲気が出てきた」と、改革の成果を口にする

 危機感を抱く背景にあるのが、組織や事業の拡大だ。創業から60年以上が経過し、売上高は今や1兆5000億円を超えた。個別事業の人員も増え、100人を超える部門も少なくない。

 これが経営の根幹を成すアメーバ経営にきしみを生じさせている。「私が若いころは5~10人の同世代だったので何でも言い合えた。でも今は組織の規模も20~30人で、世代も18歳から60代までと幅広い。若い世代はものが言いづらくなっている」と谷本社長は明かす。成長をけん引するはずのアメーバ経営がむしろ「組織の硬直化につながっていた」(谷本社長)というわけだ。

 「フィロソフィは不変だがアプローチは時代に合わせて変えていく」と谷本社長。若手を中心にチャレンジする社風を取り戻すべく、社長就任以降、新たな仕組みづくりを急いでいる。

 その一つが18年12月に立ち上げた「新規事業アイデアスタートアッププログラム」だ。既存事業の枠にとらわれない新規事業のアイデアを募るもの。19年に実施した第1期では若手を中心に約820件のアイデアが提案された。食物アレルギーの消費者にミールキットを提供するサービスなど、3件のアイデアについて、事業化に向けた検討が進む。20年に実施した第2期でも約440件のアイデアが出てきた。

 地道な取り組みも欠かさない。社長就任以降、業務の合間を縫って事業部門の若手社員と直接対話する機会を設けた。1回当たり10~20人の若手社員と2時間近くにわたって語り合う。役員クラスの意識改革を進めており、今年4月からはセグメント長による対話の機会も始まった。

 今後は組織の硬直化を招いたアメーバ経営の仕組みにも、メスを入れる考えだ。具体的には、小集団の人数をかつてのような10人規模に制限して議論しやすい雰囲気に変えていく。「10人単位では独立採算を進めていくのは難しい。時間当たりの生産性など、小集団ごとに目標を設定できるようにしていきたい」と谷本社長は話す。

 失われた社風を取り戻す取り組みから4年。「道のりは長いが、若手が意見を言える雰囲気は生まれてきた」と谷本社長は安堵の表情を浮かべる。

 世間がうらやむ社風でも、時間や環境の変化で色あせてしまう。京セラの悩みは、曖昧な存在ながらも、企業の競争力に影響を及ぼしかねない社風の恐ろしさを如実に表している。

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この記事はシリーズ「良い社風、悪い社風 不祥事の根源か、改革の妙薬か」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。