この記事は日経ビジネス電子版に『コロナ感染分析も 全国9000人、知られざる高専卒の実力』『ソリューション提案やDX ダイキン、たたき上げ高専人材が変革』『高専変身中 生徒同士でサイバー攻防戦、ARゴーグルでものづくり』(7月27~28日)として配信した記事を再編集して雑誌『日経ビジネス』8月9日号に掲載するものです。

産業界ではDX(デジタルトランスフォーメーション)など新潮流が押し寄せ、不確実性が高まる。2022年以降に大学卒業者が減り始める流れもあって、高等専門学校生が引っ張りだこだ。持ち味は「走りながら考える」力。その人材価値に着目し競争力へと変える企業の現場を追った。

<span class="fontBold">旭川高専では1年生から機械学習を使ったデータサイエンスを学ぶ</span>
旭川高専では1年生から機械学習を使ったデータサイエンスを学ぶ

 「抜群のスキルの持ち主。受け答えなどコミュニケーション力も高く、将来がとても楽しみ」。クラウドサービス大手、さくらインターネットへの2022年春の入社が内定した旭川工業高等専門学校(北海道旭川市)5年生の吉沢太佑さん(19)は、同社から太鼓判を押される逸材だ。

 電気情報工学科でウェブサイト開発などのプログラミング習得に熱を上げた。家電や産業機器を制御する小型コンピューター「ラズベリーパイ」を使った組み込みソフトウエアでも才覚を見せつけた。同学科の篁耕司教授は「バグがないプログラムを誰よりも速く正確に書き上げる技術は折り紙付き」と目を細める。

コロナ感染分析サイトを開発

<span class="fontBold">吉沢さんはコロナ対策に貢献しようと公開データを活用</span>
吉沢さんはコロナ対策に貢献しようと公開データを活用
<span class="fontBold">吉沢さんが開発したウェブサイト</span>
吉沢さんが開発したウェブサイト
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 新型コロナウイルス禍に襲われた20年。自分の力で世の中に貢献できないかと、持ち前の発想力を巡らせた。着目したのは北海道庁などが公表している感染者数などのオープンデータ。プログラミング技術を使ってデータをビジュアル化し、利用者が欲しい情報を操作して見られるウェブサイトを公開した。すると「分かりやすい」と評判になり、道庁がホームページのリンク先に取り入れた。サービスは北海道総合通信局からも表彰された。

 少子高齢化によって22年以降に大卒者が減り、人材確保が年々苦しくなる──。今、こうした「新卒採用の危機」がささやかれている。「地頭」の良さに期待して高偏差値の大卒者に目を奪われていると、同質人材ばかりになりかねない。今までと違う目線で「金の卵」を探す眼力が欠かせない。

 高専生は北海道から沖縄県まで全国57校で学んでおり、5年間の「本科」を卒業するのは毎年8700~9000人ほど。このうち約6割が就職する。冒頭の吉沢さんが内定を決めたさくらインターネットは、高専生の力量を知っているがゆえに、一般に偏差値で格付けされてきた“大学のブランド”にはこだわらない企業だ。

 吉沢さんが同社を選んだ動機は「『やりたいことをできるに変える』という企業理念に共感したから」。もう一つの理由は「自分の持ち味を理解してくれて、入社時に、大学生や大学院生とも待遇に差をつけないこと」だった。

 同社の採用ポリシーについて、ES部の矢部真理子人材支援グループマネージャーは「実力本位。行動力やチームで動けるかどうかなども見極めている」と話す。

 その証左は初任給に表れている。一般に多くの企業は、初任給の水準を「短大・高専卒」「大学学部(学士)卒」「大学修士・博士修了」などと段階的に分ける。だが、同社はエンジニア社員は27万7000円以上、営業などビジネス担当社員は25万4000円以上と、担当業務によって一律に相場を決めている。

 日本を代表する企業の一つ、日立製作所の高専卒の初任給は19万500円(AI=人工知能=や、デジタル関連の採用者を除く20年4月実績)で、大学学部卒より2万5000円少ない。

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