インフラにコスト、雇用問題。EVシフトの前には、こうした現実的な問題が立ちはだかる。欧州の各国政府やメーカーは、これらをどのようにして乗り越えようとしているのか。消費者の声や各種データから、それぞれの課題の現状と将来的なシナリオを読む。

 「充電設備? 不自由したことはほとんどないわね」──。

 オランダ第3の都市、ハーグ在住のイボンヌ・バン・レメンさんは笑顔でこう語る。1年半前に近隣の15世帯と6台の電気自動車(EV)を購入し、共同で利用している。住宅前の駐車スペースには充電設備があり、いつでも充電できる。普段は子供の送り迎えにEVを利用しているが、たまに遠出する際も充電設備は容易に探せるという。

(写真=中尾 由里子)
(写真=中尾 由里子)
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充電器の充実度、日本の16倍

 実際、オランダは急速に充電インフラを整備している。公道上の駐車スペースに充電設備がついているケースが多く、日本の街の光景とは明らかに異なる。2020年の公共充電設備の数は6万6665基で、5年前に比べ3.7倍と急増。公共の設備数は欧州で最多であり、1万人当たりでは38基と人口当たりの数で世界一だ。日本の1万人当たり2.3基のおよそ16倍となる。

 特に首都アムステルダムは整備の速度が速い。EVユーザーの要望を受けた場所に充電設備を設置。街を流れる運河には多くの充電設備がある。

 日産自動車のEV「リーフ」を社用車として利用するベルム・ヴィンクさんは毎日200kmは走るが、「充電設備はすぐに見つかる」と話す。市内には公共と民間を合わせて9600基の設備があり、25年には3万7000基、30年には8万2000基に増やす計画だ。

 充電インフラの充実から、オランダではEVとプラグインハイブリッド車(PHV)の販売台数が伸びている。20年の販売台数は8万9000台で前年から34%増加した。PHVに比べEVの比率が高いのが特徴だ。

 長らく、欧州でもEVを普及させる上での大きな課題が充電インフラの不足である。

 13年に欧州勢の中でもいち早くEVを発売してから、しばらく新型EVの発売がなく様子見が続いていた独BMW。18年に当時のハラルト・クリューガー社長にEVの課題を聞くと、「充電インフラ不足」を一番に挙げていた。

 業界団体の欧州自動車工業会(ACEA)もインフラについて問題提起をしていた。18年8月には、欧州連合(EU)の二酸化炭素(CO2)規制に反発し、「充電設備が不足しているため、非現実的だ」という声明を出していた。

街灯を充電設備に

 しかし、欧州各国が問題意識を共有し、この数年で急速に充電インフラを整備している。20年の欧州全体の公共充電設備は28万5000基と、5年前に比べ約4.3倍に増えている。オランダだけではなく、独仏英の主要国でも充電インフラが整備されつつある。

 EVの販売でしのぎを削る欧州の自動車大手もインフラについては呉越同舟の姿勢だ。フォルクスワーゲンとBMW、ダイムラーの独3社は米フォード・モーターや韓国・現代自動車などとの共同出資会社を通じ、欧州各地の高速道路に再生可能エネルギー由来の電力を活用した急速充電器の設置を進めている。

 スタートアップ企業も存在感を高めている。独ユビトリシティは、街灯などに充電器を取り付け、EV向け路上充電サービス事業を拡大している。既にロンドン市内の設備数は3000基を超える。既存のインフラを有効活用するモデルの将来性が見込まれ、同社は21年1月に欧州石油最大手の英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルが買収することで合意。インフラ投資を加速している。

 その他にも、蘭ファースネッドは、15分の給電で最大300km走行できる急速充電設備を開発中。欧州各地に設備を納入しているほか、テスラと提携し英オックスフォードで急速充電ネットワークを構築している。

 だが、欧州全域でくまなく充電設備が整備されているわけではない。イタリアやスペインなどの南欧諸国では、日本よりも1万人当たりの充電設備が少ない。欧州委員会は30年までにEV10台当たり1基の公共充電設備の設置をEU加盟国に求めているが、20年時点で多くの国がその目標に達していない。

 非営利団体「交通&環境」は、欧州委員会が示す30年の充電設備の設置件数を満たすためには、公共投資で200億ユーロ(約2兆6000億円)、民間投資で800億ユーロが必要になると試算する。ACEAなどは欧州全体で24年までに100万基、29年までに300万基の公共充電設備の設置を求めている。

 欧州ではこれまで、さまざまな問題でドイツなど財政基盤の強固な国と、南欧など債務に苦しむ国との格差が表面化してきた。EVシフトには欠かせない充電インフラについても、財政力の乏しい国々にどのような支援をしていくのかが課題となりそうだ。

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