この記事は日経ビジネス電子版に『東京五輪、海外メディアは不満爆発寸前 「我々は敵じゃない」』(7月9日)『東京五輪への教訓 ウィンブルドンとユーロ2020のコロナ対策は』(7月6日)、『東京五輪支持の中国がコロナ拡大よりも気にしていること』(7月7日)、『「なぜ五輪やりたがる?」 東南アジアが日本に向ける冷たい視線』(7月9日)として配信した記事を再編集して雑誌『日経ビジネス』7月19日号に掲載するものです。

海外メディアへの行動制限は「差別」?

 「(海外メディアへの行動制限は)明らかに行き過ぎだ」。東京五輪・パラリンピックを取材する米国の主要メディア十数社のスポーツ担当責任者が6月下旬、大会組織委員会に連名で抗議の書簡を送った。

 海外メディアは入国後14日間、事前に許可されたもの以外の取材が基本的に禁止されている。ただ自主隔離中の取材制限そのものが不満の原因ではない。規制の対象を「海外から来たばかりかどうか」で決めており、「ワクチンを接種しているか否か」ではないためだ。

 米国ではワクチン接種の普及が急速に進む5~6月ごろまで、飲食店を閉鎖したり店内飲食の人数を制限したりするなど日本に比べて厳しい新型コロナウイルス対策を実施してきた。接種人口が増えて規制が緩和され始めてからは、例えば野球場では接種者と非接種者の観戦エリアを分けるなど、「接種」が一つの基準になっている。

 そこにはさまざまな人種が暮らす“合衆国”ならではの事情もある。仮に米国で「海外出身者か否か」を規制対象の基準にすれば、途端に「人種差別」と非難を浴びるのは明らかだ。米国から見れば、日本が採用している今回の対策はこれと同じ差別に映る。

 ただ、こうした米メディアの指摘が米国内で大きく報道されているかというと、決してそうではない。一般市民は総じて五輪の開催を楽しみにしている。米CBSニュースなどが6月8~13日に実施した世論調査では、58%が「五輪の実施に賛成」と答え、「キャンセルか延期すべき」の34%を上回った。また五輪が実施されたら米国が参加すべきかの問いでも、74%が「参加すべき」と答えている。

 ワクチン接種を規制対象の基準とすることは、科学的な観点からも、さまざまな文化を持つ国・地域から選手が集まる「世界的な祭典」という観点からも、当たり前の姿勢ではないだろうか。コロナ禍によって思わぬ形で日本の内向き志向が露呈した格好だ。

(ニューヨーク支局 池松 由香)

日本はサッカー欧州選手権の教訓を生かせるか

<span class="fontBold">サッカー欧州選手権では応援に駆け付けたサポーターの間で感染が広がった</span>(写真=AP/アフロ)
サッカー欧州選手権では応援に駆け付けたサポーターの間で感染が広がった(写真=AP/アフロ)

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