この記事は日経ビジネス電子版に『中小企業再編論の死角 日本人は集まると足の引っ張り合いをする説』(6月28日)として配信した記事を再編集して雑誌『日経ビジネス』7月5日号に掲載するものです。

全国の中小企業をやみくもに統合するだけでは、強い企業は生まれない。強い中小企業の魅力を維持するには、国民性まで加味した再編プランが必要だ。そんな理想の中小企業改革が実現して初めて、日本経済は再生の出発点に立つ。

(写真=PIXTA)
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 政府が現在検討している中小企業再編論を具体化し、例えばこんな改革を実施するとどうなるだろうか。

 技術力などできらりと光る部分はあるものの経営規模などの面で一定の水準に満たない企業を選び、同業種の地域ナンバーワン中小企業に統合。都道府県ごとに1社ずつ新たな大企業をつくり上げる。大組織化するうえでは、ここまで見た“駄目な大企業”にならないように、次の2つの工夫をする。

 1つは、企業として「長期的視点」を失わない工夫だ。強力なリーダーを配置し、会社がステークホルダーからのプレッシャーなどで短期的利益の追求に走らないよう監視させてもいいし、欧米の有力企業のように長期目標の設定と順守を経営の最優先事項に定めてもいい。フランスの多国籍食品メーカー、ダノンの経営陣は常に「20年先を見据えた経営」を要求される。

 さらに「大企業病の予防」の仕組みもつくる。指揮系統や意思決定の複雑化、商品開発や社内ルールでの前例踏襲主義のまん延、組織としての様々な動きの鈍化……。そんな大企業病の予兆を、第三者の視点で早期発見し改善する仕組みを確立する。

日本人には意地悪な人が多い?

 そうやって先進的な中小企業を集めれば、小組織ならではの革新性と大組織の安定性を兼ね備え、なおかつ日本の“駄目な大企業”の欠陥も持たないスーパーカンパニーが生まれないだろうか。「残念ながらそうはならない」。近年、そんな結論を示唆するユニークな研究結果が出てきている。

 大阪大学社会経済研究所を中心としたグループは「日本人はいじわるがお好き?!プロジェクト」と呼ぶ研究を実施した。研究の核となったのは、2人一組で投資し合い公共財をつくるゲーム。2人で投資額を増やせば公共財はその分、充実する(自分も相手も得)。だが、自分だけが投資をすれば、投資額に見合うリターンを得られず、相手は労せずして恩恵に浴することになる(自分は損、相手は得)。逆に相手にだけ投資をさせれば、自分は大きく得をする(自分は得、相手は損)。

 こんなゲームを各国で実施し、国ごとにプレー中の振る舞いを分析したところ、日本人と他の国の人では行動に明確な違いがあることが判明した。米国人や中国人が「相手は相手、自分は自分」と自らの利益を最大化しようとするのに対し、日本人はたとえ自分が損をしても他人に損させようとする「嫌がらせ行動(スパイト行動)」を優先する傾向が有意で顕著だったのだ。

 ここから1つの仮説を素直に導くならこうなる。日本人の中には、他人の成功をねたみ、足を引っ張ろうと考える意地悪な人が他の国よりも多く存在する──ということだ。

 この仮説が的を射ているとすれば、日本の大企業は、長期的視点の喪失や前例踏襲主義どころではない大きな弱点を抱えていることになる。

<span class="fontBold">西條特任教授は「日本人は自分が損してでも相手の足を引っ張る」と話す</span>
西條特任教授は「日本人は自分が損してでも相手の足を引っ張る」と話す

 「大企業であれ中小企業であれ、足を引っ張ることを好む人の割合には、それほどの差はないと思われる。ただ、組織の人数が少ない中小企業であれば、経営者のリーダーシップや意識の共有によってその弊害を最小限にできる。大企業になればなるほどそれが難しい」。研究の中心だった高知工科大学の西條辰義特任教授(研究発表当時は大阪大学社会経済研究所教授)は指摘する。

 だとすれば、一部の大企業が将来花を咲かせるかもしれない技術の芽を潰すのは、恐らく「短期利益主義」だけが理由ではない。それに加えて、技術者たちが夢を抱いて未知の研究に挑む姿に嫉妬し、妨害しようとする人が社内に少なからずいるのだ。人数が多い組織ほど、こうした妨害の動きをなくして方向性を一にしていくことが難しいと考えられる。

続きを読む 2/3 足の引っ張り合いで革新を潰す

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この記事はシリーズ「大は小を兼ねない 中小企業 再編論の罠」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。