この記事は日経ビジネス電子版に『ワクチン接種で大活躍 新潟の中小企業が国難を救えた理由 』(6月21日)として配信した記事などを再編集して雑誌『日経ビジネス』7月5日号に掲載するものです。

中小企業は大企業に比べ体力が弱く生産性も低い──。多くの人はそう考えている。だが、技術力や革新性などで大企業より先進的な中小企業を探すのは難しくない。強い中小企業に共通するのは、日本の多くの大企業が患う「2つの病」と無縁なことだ。

<span class="fontBold">ツインバード工業はディープフリーザーの需要に応えるため生産ラインを増強した</span>
ツインバード工業はディープフリーザーの需要に応えるため生産ラインを増強した

 新型コロナウイルス禍の収束に向けて欠かせないとされるワクチン接種。菅義偉首相は1日当たり100万回を目標に掲げ、遅ればせながら日本でも7月23日の東京オリンピック・パラリンピック開催を前に接種が進んでいる。このワクチン、当初は供給面で大きなボトルネックを抱えていた。零下数十度という超低温で管理が必要なことだ。

 ワクチンを国中へ普及させるには、庫内温度を安定的に超低温に維持する機能と、全国津々浦々まで運搬できるコンパクト性を兼ね備えた特殊な冷凍庫が必要になる。一般人には用途すら思い浮かばないそんなマイナーな機器を迅速に増産し、国難の打開に一役買っているのが新潟県燕市のツインバード工業だ。

 1951年に創業し、金属加工で知られる燕三条地域で家電製品などを製造してきた、従業員300人余りの同社。トップである野水重明社長が「これがワクチンの運搬に使われている製品です」と紹介するのが「ディープフリーザー」と名付けた独自機器だ。2021年4月までに、武田薬品工業と厚生労働省へ5000台ずつ計1万台納めた。

宇宙ステーションでの実験用

<span class="fontBold">地元の新潟県燕市でもワクチンの運搬に同社製品が使われた</span>(写真=新潟県燕市提供)
地元の新潟県燕市でもワクチンの運搬に同社製品が使われた(写真=新潟県燕市提供)

 高さ46cmの箱型で、庫内は零下40度で冷やし続けることだけでなく、1度単位の厳密な温度管理が可能。16.5kgと運搬もさほど難しくない。武田薬品の品質試験にパスした運搬用冷凍庫はディープフリーザーしかないという。

 6月17日時点で1回目の接種を済ませた人が全人口の16.3%と、ただでさえ遅れが目立つ日本のワクチン接種。ディープフリーザーがなければさらなる混乱が起きていた可能性もある。世界に名だたる大企業が居並ぶ日本の製造業だが、肝心な時に国を救ったのは、新潟の中小企業だったというわけだ。

 ディープフリーザーの核となっているのは、フリー・ピストン・スターリング・クーラー(FPSC)という技術だ。円筒内でピストンが往復運動し、ヘリウムガスを膨張・圧縮させることで冷却する。用途が非常に限定的で、コロナ禍以前は国際宇宙ステーションの日本実験棟などで使われてきた。

 ここで「なぜそんなマイナーな技術を、大企業ならまだしも地方の中小企業が保有していたのか」と思う人もいるに違いない。だがそれは発想が逆で、ツインバードは中小企業だからこそ、“いつ花を咲かせるか分からない技術”を温め続けてこられた可能性が高い。

 FPSCの開発は20年以上前、1990年代後半に遡る。その頃、野水社長の父である重勝氏は、ある“家電業界のレジェンド”から経営指導を受けていた。シャープ元副社長の故・佐々木正氏だ。

 佐々木氏は1915年、島根県に生まれた。京都帝国大学工学部を卒業後、川西機械製作所(後の神戸工業、その後、富士通に合併)を経て、64年、49歳のときに早川徳次氏に請われ早川電機工業(現シャープ)に入社した。松下電器産業(現パナソニック)を倒すべく開発の先頭に立ち、シャープ発展の礎を築く。70歳を過ぎてからは経営の第一線を退き、私塾で後進の育成に当たっていた。

続きを読む 2/10 家電業界のレジェンドの助言

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