サトシ・ナカモトの提案から生まれたブロックチェーン(分散型台帳)。集中管理しないという発想が生きるのは金融分野だけではない。仮想通貨で10年にわたり磨いてきた技術が広がり始めた。

オランウータンが生息する森でコーヒーを育てることで、種の保存や、コーヒーの安定供給、森林の保全につながる

 スマートフォンのアプリを開いてコーヒー豆のパッケージにあるQRコードを読み取ると、地図にインドネシアのスマトラ島北部、ガヨ高原にある生産地が表示される。その地図からは、同国の港からドイツ北部の倉庫を経て、英国のコーヒー加工施設にたどり着いたことも分かる。

 これは、スイスのファーマーコネクトが構築した仕組みだ。スマトラ島で収穫した「オランウータンコーヒー」と呼ぶコーヒー豆が、どんな経路をたどって消費者の元に届いたのかを見せる狙いだ。

 コーヒーの主な生産地は、赤道を挟んで北緯約25度~南緯約25度の「コーヒーベルト」と呼ばれるエリア。途上国を中心に農家が点在する。昼夜の寒暖が激しいほど味が良くなるため、標高500~2500mの高地で育てられているケースが多い。

 オランウータンが好む高い樹木の木陰は、低木のコーヒーを育てるのに適している。その一方で、スマトラ島ではプラント開発のためにオランウータンが生息する熱帯雨林の伐採が進んでいる。オランウータンコーヒーを飲み、コーヒー農家の収入につながれば、野生のオランウータンの保護にも貢献できるというわけだ。

 「コーヒーは嗜好品だからこそ、背景のストーリーが消費者の関心を呼ぶ」。こう話すのは、伊藤忠商事コーヒー課の岡本夏樹トレード統括。伊藤忠はファーマーコネクトが取り組むコーヒーのトレーサビリティー(追跡可能性)のプロジェクトに2019年に参画し、21年3月にファーマーコネクトへの出資を決めた。

 ファーマーコネクトがコーヒー豆などの農産物の流通経路を記録するのに活用しているのがブロックチェーンだ。農園の近くにある集荷センターから、倉庫、港、工場など、経由した場所を記録していく。今後は農家ごとにIDを付与し、より詳細に経路を追えるようにする計画だ。

 途上国で、高地。それも、小規模な農家が点在している。もともとコーヒー豆の追跡の難度は高い。従来は川上から届く情報を川下が追認するケースが多かったが、放置していれば、いつの間にか地球環境や人権などに関するリスクを抱える可能性もある。

 また、コーヒー豆のサプライチェーンには世界の農家や卸売業者、物流業者など様々な立場の企業が関わる。どこか1社がシステムを作っても、流通経路を追うには限界がある。生産地が異なるものをブレンドすることも多い。そこで、分散型のシステムで情報を管理できるうえに改ざんが難しいブロックチェーンを使おうと考えたわけだ。

 ファーマーコネクトはコーヒーと似た性質を持つチョコレートについても同様の取り組みを進めている。世界に供給網がまたがる商材で「原産地リスク」が意識される今、ブロックチェーンは供給網の透明性を高めるための有力な選択肢となりつつある。

 ブロックチェーンという言葉が最初に話題になったのは15~16年ごろ。当時は夢のような技術として捉える向きもあったが、IT(情報技術)業界の常として「幻滅期」といえる時期に突入。それから5年ほどがたち、地に足が着いたブロックチェーン活用が様々な産業で進んでいる。

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