政府による炭素の価格付け制度に先駆け、企業は炭素をコストとして計算し始めた。温暖化ガス排出が少ない電源や設備に「価格合理性」を持たせ、投資しやすくする。花王や日立製作所、ヤフーなどが既に導入。費用対効果の尺度が変わりつつある。

 花王が「2050年までにカーボンネガティブを目指す」と5月に公表した際、産業界では驚きの声が上がった。ネガティブというのは、事業活動によって大気中のCO2を増やさないのはもちろん、むしろ減らすことを示す。国の目標は50年の炭素中立だが、同社は40年までにこれを達成するとも宣言した。

<span class="fontBold">花王は紙おむつ生産も再エネ電源へのシフトを進めている。2030年までに同社全体で1000万トンの二酸化炭素を減らす</span>
花王は紙おむつ生産も再エネ電源へのシフトを進めている。2030年までに同社全体で1000万トンの二酸化炭素を減らす

 同社は家庭用品や化粧品の大手メーカーとして、脱炭素がブランド価値に直結すると考える。長谷部佳宏社長は“Sustainability as the Only Path”(持続可能性こそ唯一の道)という経営理念を掲げ、英語で国内外に発信している。具体的な目標も大胆に打ち出すことで、「地球に優しい企業」のイメージを構築する狙いだ。

 絵に描いた餅にならないよう、2つの時間軸で戦略を展開していく。長期戦略が「CO2リサイクルイノベーション」である。容器などで化石燃料由来のプラスチックを使うのではなく、CO2を原料にした新材料で作れるよう技術を開発する。並行する短・中期戦略では、独自の再エネ電源整備と購入電源の脱炭素化を図る。30年までにCO2排出量を17年比55%減にする計画で、従来目標(22%減)を一気に引き上げる。

社内の投資ルールを変更

 これらに先立ち、実は花王は「投資ルール」を変えてきた。06年に導入した、社内で炭素排出に価格を付けるインターナル・カーボンプライシング(ICP)がその代表例だ。例えば設備投資の場合、一般的には投資金額を何年間の利益で回収できるかで判断するが、ICPの場合、利益に加えて「削減できるCO2の量」を加味する。ただし、お金とCO2では単位が異なって比較できないため、CO2に価格を付けて金額に一本化して投資判断をするわけだ。

 10年以上運用してきたが「実際に設備投資やエネルギー調達の判断を変えるにはまだ不十分だった」とESG活動推進部の柴田学部長は振り返る。そこで、ここ数年で炭素価格をより高く見積もるように変更を加え、投資判断への影響を大きくした。

 今後のモデルとしたのが、紙おむつや生理用品を生産する栃木工場だ。19年に出力1500キロワットの太陽光発電システムを設置。さらに電力会社から購入する電力は、再エネを選択していることを証明する「非化石証書」付きにしている。電力料金は上がるが、脱炭素に取り組んでいることを示し「弊社の商品を購入してくださる消費者の行動が社会を変えるというメッセージを出す」(大谷純子ESG広報担当部長)ことを優先した。

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