この記事は日経ビジネス電子版のコラム『日本に埋もれる「化ける技術」』(5月14日~)に掲載した記事を再編集して雑誌『日経ビジネス』5月31日号に掲載するものです。

日本のあちこちに芽生える技術の種を、既存の企業はどう育て、実らせていけばいいのか。キーワードは「スピード&オープン」。新しいものを受け入れる姿勢と決断力が欠かせない。リスクを取って未知の技術に投資する大胆さも問われている。

<span class="fontBold">三洋化成グループが開発した次世代電池の「全樹脂電池」(下)は、構想から20年の時を経て実現した。ソフトバンク子会社の「空飛ぶ基地局」(上)など特徴ある設備への搭載が見込まれる</span>
三洋化成グループが開発した次世代電池の「全樹脂電池」(下)は、構想から20年の時を経て実現した。ソフトバンク子会社の「空飛ぶ基地局」(上)など特徴ある設備への搭載が見込まれる

 2020年9月、ソフトバンク子会社のHAPSモバイル(東京・港)が米国で空飛ぶ基地局「サングライダー」の試験飛行を実施した。世界最大級の無人飛行機は地上約19kmまで高度を上げ、バッテリーと太陽光発電だけで約20時間飛び続けた。独調査会社によれば、インターネットに接続できていない人口は約37億人。サングライダーが実用化すれば、地上基地局がカバーできない地域の人がインターネットを使えるようになる。

 試験飛行の約3カ月後。三洋化成工業の関連会社だったAPB(東京・千代田)とHAPSモバイルは、APBが開発する全樹脂電池をサングライダー向けに開発する基本合意を結んだと発表した。全樹脂電池とはその名の通り、通常は金属の電池材料を樹脂に替えたもの。電極などを全て樹脂にすることで発火しにくくなり、軽量化できる。従来のリチウムイオン電池に比べエネルギー密度が2倍近くあるのが特徴だ。

 「ここまで踏み込んで一緒に開発してくれるところはなかった」。APB創業者の堀江英明社長は全樹脂電池の材料探しに奔走していた12年をこう振り返る。同氏はもともと日産自動車で電気自動車(EV)向けリチウムイオン電池の研究開発を率いた電池の第一人者。1998年に全樹脂電池を構想したが、適合する材料は見つけられなかった。

<span class="fontBold">三洋化成工業の安藤孝夫社長はスモールスタートで新たな事業の種を探る。風土改革にも注力してきた</span>(写真=今 紀之)
三洋化成工業の安藤孝夫社長はスモールスタートで新たな事業の種を探る。風土改革にも注力してきた(写真=今 紀之)

 そんな中、2012年1月にある講演会で出合ったのが三洋化成だ。同社のコア技術は有機物を人工的に作る有機合成や異なる材料の境界を制御する界面制御。1907年に創設されたせっけんの製造所が前身で、40年代に三井物産や東レなどが出資し創立された。

 重要部品の電極材料について、両社は2週間に1度のペースで材料を試し、作ったサンプルは約5000種類。開発にめどをつけた堀江氏はAPBを設立し、三洋化成の持ち分法適用会社となった。

 APBは2020年にJXTGホールディングスグループや大林組、帝人、横河電機など国内10社余りから100億円の資金を調達し、今秋にも福井県で工場を稼働する。川崎重工業の自律型無人潜水機(AUV)に搭載されたほか、再生可能エネルギーを貯蓄する蓄電所などへの活用を急ぎ、25年度に全樹脂電池の売上高で約900億円を目指す。

 「日本はこまごまと投資するが、欧米や中国はそんな戦い方をしていない」。堀江社長は海外勢の巨額投資に危機感をあらわにする。全樹脂電池は構想から20年かかったが、放っておけば追い抜かれる。25年度をめどに約1000億円を集め、年産数十ギガ(ギガは10億)ワット時級の新工場を検討中だ。

 三洋化成はここ数年、APBのようなユニークな企業に出資をしている。多いのは数億円規模の投資だ。11年に就任した安藤孝夫社長が重視するのがスピード感。「半年考えても良しあしが分かるはずはない。数億円はドブに捨ててもいいくらいに考えないと」

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