ウニから始まる「三方よし」

<span class="fontBold">大分県国東市の漁業者と大分うにファームを立ち上げ、ムラサキウニ(下の写真)を陸上で育てている</span>
大分県国東市の漁業者と大分うにファームを立ち上げ、ムラサキウニ(下の写真)を陸上で育てている

 「廃棄されていたウニを育てて販売すれば、漁師の収入が安定し地域の特産品にもなり、循環型のシステムを構築できる」。こう語るのは、ウニノミクス(東京・江東)の財務・戦略責任者である石田晋太郎氏だ。同社が取り組むのは世界の海で起きている「磯焼け」問題。犯人は、海藻を食べ尽くすウニだ。

 産卵する魚や甲殻類も多い藻場は海のゆりかごであるだけではなく、CO2を吸収する役割を担う。ただ岩場に張り付いたウニは食材にならず、取っても漁師の収入にならないためさらに増える悪循環にある。政府や自治体が補助金を使って駆除しても、大半は廃棄される。その「厄介者」のウニを買い取って陸上で成長させ、おいしい食材に育てるのが狙いだ。

 ウニノミクスは痩せたウニを陸上にある工場内で育て、適切な餌、徹底的な温度管理をすることで約2~3カ月後には中身の詰まったおいしいウニへと変身させる。大分県国東市の漁業者と19年3月に世界初のウニの畜養会社を設立。同工場の年間の生産量は18万トンを見込み、地元の旅館や飲食店、さらには九州や首都圏、中国への輸出も視野に入る。

 海水温上昇や異常気象といった環境問題や食糧問題、さらに漁業活性化といった地域課題を同時に解決する。そんな「三方よし」のモデルを生むチャンスはまだまだ日本に眠っている。

 サッカー施設「Jヴィレッジ」などがある福島県沿岸部の広野町。ここで20年6月から人工知能(AI)を使って災害に強い街づくりを目指す「AIスマートシティプロジェクト」が始まった。豪雨時の浸水被害や地域などを1時間以内で正確に予測する取り組みだ。

<span class="fontBold">高度な数学を応用して豪雨時などの浸水状況を迅速にシミュレーションし、地域住人の退避などに生かそうとしている</span>
高度な数学を応用して豪雨時などの浸水状況を迅速にシミュレーションし、地域住人の退避などに生かそうとしている

 それを支えるのが、スタートアップのArithmer(アリスマー、東京・港)。創業者の大田佳宏社長は東京大学大学院で数学を教える特任教授でもある。

 地震や水害など自然災害が多発する日本では、これまでも災害時のシミュレーションが試みられてきた。ただ従来は画像処理に時間がかかり、予測に数週間要するケースもあった。

 アリスマーでは数学の手法を駆使してこの問題をクリアした。ドローンが計測した緯度や経度、高さといったデータを碁盤の目のように細かく区切り、そのデータを基に専用ソフトで3次元地図として再現。そこに浸水の高さや流速などを計算する方程式を組み合わせ、短時間でシミュレーションする。そうすることで、早い段階で退避が可能になる。

 ここで鍵になるのは、地形の連続的なデータをどう区切るかだ。シミュレーション時に必要最低限の計算量となるように、大田社長も専門とする「超離散系」の手法で最適な区切り方を求める。「流体力学や数学を専攻した社員を抱えるからこそできたノウハウだ」と大田社長は話す。

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