この記事は日経ビジネス電子版のコラム『日本に埋もれる「化ける技術」』(5月14日~)に掲載した記事を再編集して雑誌『日経ビジネス』5月31日号に掲載するものです。

社員16人のスタートアップ企業が生み出したロボットが、宇宙開発の常識を覆そうとしている。イノベーションの力が低下したといわれる日本だが、つぶさに見れば「金の卵」はあちこちにある。

<span class="fontBold">宇宙作業のコストを大幅に引き下げることを狙うGITAIの中ノ瀬CEO(右)。SCHAFT創業者、中西氏(左)も開発チームに</span>(写真=的野 弘路)
宇宙作業のコストを大幅に引き下げることを狙うGITAIの中ノ瀬CEO(右)。SCHAFT創業者、中西氏(左)も開発チームに(写真=的野 弘路)

 4月半ば、宇宙ロボット開発のスタートアップGITAI(ギタイ、東京・大田)の上月豊隆最高技術責任者(CTO)は米ヒューストンにいた。「よろしくお願いします」。民間宇宙サービスの米ナノラックスの本社で担当者に引き渡したのは、宇宙での実証実験で使う汎用ロボットだ。

 ロボットは米スペースXのロケットに搭載され、8月半ばには国際宇宙ステーション(ISS)へ飛び立つ予定。課せられたのはこれまで人が担ってきたISS設備の建設や保守などを代替するミッションだ。

 「宇宙での作業はリスクもコストも重い。その課題を解決する」。GITAIの中ノ瀬翔最高経営責任者(CEO)は決意を語る。宇宙飛行士1人当たりのコストは年間400億円。時給換算なら500万円とべらぼうに高いが、連続して宇宙に滞在できるのはせいぜい半年、トータルでも1人約2年だ。放射線が飛び交う宇宙空間は人体への安全性も高いとはいいがたい。

 人に代わるロボットが宇宙でも活躍できるようになれば、ISSのみならず衛星のメンテナンスサービスや、はては月面基地建設まで宇宙開発のスケールやスピードは一気に高まる。GITAIは宇宙作業のコストを一気に100分の1にすることを狙う。これまで1つの作業に特化した宇宙ロボットしかなかったが、GITAIの「S1」は世界初の汎用型。太陽光パネル装置の取り付けからねじ締め、ビニール製のチャック式パウチの開け閉めもできる。握力や振動のセンシングは人と大差ないレベルだ。

 宇宙は真空で放射線も多いうえ、零下270度と特殊な環境。衛星大手は専用の特殊な機器や部品を作り込むが、GITAIは独自のもの作りにトライしている。同社は産業部品や工具の通販サイト「モノタロウ」のヘビーユーザー。汎用品を徹底活用し外部委託は極力抑え、電子回路からモーターまで自前で生産。垂直統合で組み立てる。

 通信や制御システムは「故障してもバッファーを用意すれば有事にも対応できる」と割り切り、トライ&エラーをどんどん繰り返しながら約1年で要求通りのロボットを完成させた。米航空宇宙局(NASA)の審査はクリアしており、安全性のお墨付きを得ている。