この記事は日経ビジネス電子版に『過疎とはまったく無縁 「無子化エリア」4つの出現条件』(5月13日)として配信した記事を再編集して雑誌『日経ビジネス』5月24日号に掲載するものです。
少子化に拍車がかかり「無子化社会」が到来するのは、遠い将来の話ではない。既に日本の様々な場所で、子供が少ないどころか見かけないエリアが確認可能だ。過疎地でもないのに「無子化エリア」が出現するパターンはいくつかある。

共働き世帯の増加に伴う職住近接志向の高まりや、大規模金融緩和によるカネ余りを受けて急ピッチで再開発が進む東京都心部。以前は不人気だったエリアが「住みたい街ランキング」で急上昇するケースが増えている。東京東部のエリアもその一つだ。
新しい高層マンションが次々に建設され、シネマコンプレックスの入った大型ショッピングモールと緑豊かな公園が整備されている。エリア内を通過する鉄道の駅前は多くの子供連れ客でにぎわい、日本の少子化を忘れさせる光景を見ることができる。
だがそんな新興エリアの中に、子供をほとんど見かけないA地区がある。最寄りの駅から歩いてもすれ違うのは高齢者ばかり。「自分にも子供がいてまもなく1歳ですが、何とか小学生になる頃までには引っ越したい」。この地区に住む30代の男性会社員はこう打ち明ける。男性がこの地区に暮らすのは周辺地域に比べ家賃が安いからだ。安い理由について男性は「例の事件による風評被害が今でも続いているから」と話す。
「事故物件」への忌避
今から30年以上前、A地区の一軒家で殺人事件が発生した。遠い過去の話ではあるものの、それがいまだ人々の記憶に残り、A地区の家賃相場を下げる一方で、若い世代が流入する障壁となっているという。
殺人や自殺の現場を特別視し忌避するという考え方は日本独自のケガレ文化に通じるようにも思えるが、事故物件公表サイトを運営する大島てる氏は「比較的新しい概念で、戦後の焼け野原から復興し住宅が多くの国民に普及し始めた高度成長期以降、事故物件にはなるべく住みたくないという考え方が出てきた」と解説する。
ただし大島氏自身は 「不動産とは日当たりや立地、建物の状態など個別性が高いもので、本来、事故物件も当該物件だけが問題になる話。それが周辺地域の人口減少まで招くようなことはない」と考えてきた。にもかかわらず新興エリアにぽつんと残るA地区。人口減少社会では、同じ事故物件でも度が過ぎれば、周辺地域への風評被害まで招く強力な要因になるのかもしれない。
少子化の加速により様々な場所に出現しかねない「子供をほとんど見かけないエリア」。実際、過疎地に限らずそうした場所を見つけるのはもはや難しくない。とりわけ都心部の「無子化エリア」にはいくつかの出現パターンがある。
例えば「事故物件の風評被害エリア」よりもずっと身近なのが「空き家急増エリア」だ。
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