この記事は日経ビジネス電子版に『コロナ禍で進む恋愛停止 西伊豆・恋人岬「愛の鐘」はもう鳴らない?』(5月10日)として配信した記事などを再編集して雑誌『日経ビジネス』5月24日号に掲載するものです。
人と人の接触が制限されるコロナ禍によって社会全体で恋愛活動が停滞しつつある。デートスポットに閑古鳥が鳴くのは、緊急事態宣言に伴う外出制限だけが理由ではない。今の状況が続けば、日本経済の活性化を阻む一大要因、少子化が急加速しかねない。

180度以上のパノラマで眼前に広がる駿河湾の絶景、展望デッキからはるか遠くに望む富士山の頂──。伊豆・修善寺から車で約1時間、静岡県伊豆市にある「恋人岬」は、西伊豆を代表する観光スポットの一つだ。
もともと「廻り崎」と呼ばれたこのエリアに旧土肥町が今の名を付けたのは1983年。以来、知名度が急上昇し、つい最近まで毎年約25万人の観光客を受け入れてきた。

だが、2021年4月中旬、現地を訪れると観光客はまばら。日中1時間以上、駐車場から岬の先端付近にある有名な「愛の鐘」まで約500mの遊歩道を何度か往復したが、ぽかぽかの陽気にもかかわらず、数組の観光客とすれ違うだけだった。
人影がまばらなのは現地だけではなく、熱海から修善寺までの移動に使った特急踊り子号でも1車両最大72席中、人が座っているのは4席のみ。修善寺から恋人岬へのバスに至っては、途中から他に乗客が1人もいなくなった。
「コロナ禍の中では、観光地に人がいないのなんて当たり前」。こう思う人もいるかもしれないが、話はそう単純ではない。確かにコロナ禍は観光地に打撃を与えているものの、その影響は国民の“自粛疲れ”などを背景に一時期ほどではなくなっているからだ。
「恋人岬」が出遅れる理由
実際、緊急事態宣言が4月25日に1都2府1県に適用されたにもかかわらず、大型連休中の東京駅や羽田空港の人出は20年に比べて増加。東京駅では連休初日の東海道新幹線下り自由席の乗車率が最大60%に上るなど、10%以下だった昨年を大きく上回った。関東近郊の高速道路でも20年はほとんどなかった20km超の渋滞が各所で発生。春以降、想定以上の人出でにぎわう観光スポットは増えている。
そう考えれば、他の観光名所同様、もっと客足が戻っていいはずの恋人岬。そうならないのは恐らく、恋人岬がただの絶景ポイントではなくその名の通り「恋愛中の人」をとことんターゲットにした観光スポットであるからだと思われる。
恋人岬という名は、この地に伝わる伝説に由来する。朝市で出会った福太郎とおよね。互いに引かれ合いながら遠く離れて暮らす2人は、神様からもらった鐘を持ち合い、福太郎が漁船で沖を通るたびにおよねが岬に立ち、鐘を鳴らし合うことで愛を確かめた──。そんな話をベースにして整備された名所だけに、今も恋人岬はとにかく「恋人たちが愛を確かめ合う仕掛け」であふれている。
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