一律、座学、年次主義──。型通りの人材育成はもはや意味をなさない。そんな危機感を持った企業が、変化に強い自立型人材の育成に乗り出した。通常業務ではできない経験をさせながら個人の強みを伸ばそうとしている。
2021年の大河ドラマ「青天を衝け」の主人公、渋沢栄一。500もの会社の創設に関わったとされるが、その1社が1882年創業の東洋紡だ。日本初となる民間の大規模紡績会社、大阪紡を前身とし、現在は幅広い分野の高機能素材を手掛ける。菓子やカップ麺、ペットボトルのラベルなどに使われる食品包装用フィルムは国内トップシェアを誇り、自動車用資材、海水を淡水化する際の膜などに使われる環境用素材にも強い。
「順理則裕(理にしたがえば、すなわちゆたかなり)」。東洋紡が経営理念として掲げるのは、渋沢栄一の座右の銘だ。理を貫くことで世の中を豊かにし、自らも成長せよという意味が込められている。
クラウドファンディングも経験
ところがこの経営理念とは裏腹に、近年は成長が鈍化していた。売り上げの約4割を「フィルム・機能マテリアル」が占めており、次の柱となる新規事業が長らく生まれてこなかった。どんな製品にもいずれ寿命が訪れるのが素材メーカーの宿命。それだけに、社内には「このままでは先細りになる」という危機感があった。
現状打破に向けて東洋紡が2018年11月から始めたのが、「みらい人財塾」と呼ぶ新たな研修プログラムだ。対象は20~30代の若手社員。企画から資金調達、製造、販売までの新商品が世に出るまでのプロセスをすべて手掛ける機会を提供し、新規事業に必要なノウハウを学ばせる狙いだ。クラウドファンディングのサイトを運営するマクアケとタッグを組んで進める。
このプログラムの立ち上げから携わってきた飯塚憲央・イノベーション戦略部長の目に映っていたのは、若手社員が挑戦意欲を持ちにくい環境だ。「現在、会社の中核を担う40代の社員は、バブル崩壊後の厳しい経営環境を経験しているせいか、会社の損失をどのようにして回復するかという経営効率に目を向けがち。そんな40代を見て育った下の世代には新しいことに挑戦する気持ちが生まれにくいと思った」と飯塚氏は打ち明ける。
みらい人財塾のポイントの1つは、大企業ではあまり経験することがない資金調達も手掛けること。クラウドファンディングでは企画が消費者に受け入れられなければ資金が集まらず、開発や製造が進まない。消費者のニーズを探り、企画を受け入れてもらうために何が必要かを必死に検討することになる。一方で、会社にとっては在庫を抱える不安がなくリスクが低い。
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