メンバーシップ型の雇用と深く結びついていた日本企業の人材活用。激しい環境変化を前に、これまでの定石が通用しなくなっている。前例にとらわれずに新たな人材活用に挑む企業が出始めた。

ブラザー工業は2018年4月に新卒入社した渡邊航平氏をAI人材の育成担当者に指名した(写真=右:西村尚己/アフロ、渡邊氏:川口 亮)

 今年2月、名古屋市に本社を置く事務機器大手のブラザー工業で、自ら手を挙げた10人程度の社員が真剣なまなざしで“あるオンライン研修”を受講していた。

 開催されていたのは、AI(人工知能)を使うための初心者向けのプログラミング研修だ。需要予測や異常検知といったAI活用のテーマごとに、2018年末からほぼ毎月開催されている。テーマに応じた活用手法を座学で学ぶだけでなく、講師が直接指導する形でプログラミング言語「Python(パイソン)」を使った演習にも取り組む。

 このオンライン研修を受けられるのは、製造技術や開発部門などブラザー工業の単体正社員。毎回10人程度と少人数で研修することもあり、すぐに募集枠が埋まってしまうという。

 ブラザー工業は佐々木一郎社長の大号令の下、「AI Everywhere.」を合言葉にAI人材を育成する全社プロジェクトを18年から推進している。社内サイトには専用ページが設置され、最新のAI技術やその活用事例を紹介。社内研修は全社員を対象にしたものだけでなく、ソフト開発者やマネジメント層、新入社員向けのものもある。

「旗振り役」に入社直後の新人

 機械や電子といった分野の技術者が多いブラザー工業が、なぜIT(情報技術)大手のようなAI人材育成の仕組みを確立できたのか。この育成プログラムを統括するソフト技術開発部の須﨑与一プロジェクト・マネジャーはこう打ち明ける。「大胆に人材を抜てきしたことが大きい」

 抜てきした人材とは、ソフト技術開発部の渡邊航平氏。プロジェクトが立ち上がった18年4月に新入社員としてブラザー工業に入社したばかりの若手社員だ。大学院でAIを専攻していたことから、入社してすぐに白羽の矢が立った。

 その渡邊氏は今、AI人材育成プロジェクトにおける取り組みの多くを主導する立場にある。研修のカリキュラムを作成し、多くのプログラムで自ら講師として登壇。社内の専用ページにAIの最新動向を日々書き込むことも欠かさない。

 全社プロジェクトの「旗振り役」に新人を据えるのは、大企業では異例と言える。ところが、佐々木社長は意に介さない。「最先端の技術は大学で学んだばかりの人材が主導すべきだ」と、当然の判断だったと説明する。須﨑プロジェクト・マネジャーも「本人の意欲もあり、最もAIに詳しい人材に任せようと決めた」と振り返る。

 そこに広がるのは、「講師は社内で経験を積んだベテランでなければならない」「立場が上の社員の言うことしか聞いてもらえない」といった昔ながらの考え方とはまったく違う景色だ。

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