この記事は日経ビジネス電子版に『コロナ接触確認「COCOA」失敗の意味とは、IT転換促す奇貨に』(4月22日)として配信した記事を再編集して雑誌『日経ビジネス』4月26日号に掲載するものです。

厚生労働省が鳴り物入りで送り出した新型コロナ接触確認アプリ「COCOA」。4カ月にわたり3割のスマホで機能しないなど不具合が次々に発生した。厚労省のシステム問題は日本が抱えるIT化への構造的課題を浮き彫りにしている。

<span class="fontBold">COCOAなど様々なシステムトラブルが発生した厚生労働省。2月3日、COCOAの不具合が4カ月放置されていたことについて、田村憲久・厚労相は「信頼を損ね、申し訳ない」と陳謝した(右)</span>(写真=2点:共同通信)
COCOAなど様々なシステムトラブルが発生した厚生労働省。2月3日、COCOAの不具合が4カ月放置されていたことについて、田村憲久・厚労相は「信頼を損ね、申し訳ない」と陳謝した(右)(写真=2点:共同通信)

 なぜ家族に通達されないのか──。PR会社サニーサイドアップの次原悦子社長は、新型コロナウイルス接触確認アプリ「COCOA(ココア)」への疑問が今も消えない。

 次原氏は第3波が到来していた1月2日、PCR検査で陽性が判明。同居する義母や、娘ら家族が濃厚接触者となった。「私はどこで感染したのか」。スマートフォンに入れていたアプリで2週間の接触状況を調べると、画面には「陽性者との接触は確認されませんでした」の文字。驚くべきことに、自分と接した家族のスマホも同様だった。

 「私と接触している家族のアプリが機能しないのはおかしい。COCOAをよりどころにしている人も多いはず」。次原氏はこう考え、SNSなどでCOCOAが正常に機能しないと“告発”した。

 こうした声も受けて厚生労働省は調査を始め、2月3日にグーグルの基本ソフト、Android版で正常に作動しないことが明らかになった。

 命が危険にさらされている疫病流行下、陽性者情報を知らせるアプリが機能しない。なぜこのような事態が起きたのだろうか。厚労省は4月16日にCOCOA問題の内部調査報告書を公表した。報告書や関係者を取材すると、厚労省の担当者の責任意識や役割分担が不明瞭だったという構図が見えてきた。

一部で不具合が続いていた昨年9月以降は低調
●COCOAのダウンロード純増数
<span class="fontSizeL">一部で不具合が続いていた昨年9月以降は低調</span><br>●COCOAのダウンロード純増数
注:純増数は厚生労働省調べ
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 COCOAは2020年6月に提供を始めた。利用者が1m以内に15分以上いた場合、互いのスマホに記録が残る。陽性者が保健所から発行された番号を登録すれば、相手方に「陽性者と濃厚接触の可能性がある」と通知される仕組み。ダウンロード数は今年3月時点で約2600万件。ところが20年9月28日のバージョンアップ以降、Android版では接触が正しく通知されない不具合が発生。厚労省が今年2月に発表するまでの4カ月間、全体の約3割の不具合を放置。昨年11月にエンジニアが集まるコミュニティーサイトでも問題を指摘されたが、反映されなかった。

 少なくとも不具合の指摘があった時点で検証し、不備を解消できたはずだ。問題の原因として3つのキーワードが浮かび上がった。

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