欧州、対中国で協調ムードも脱炭素で探り合い
米国と連携した対中制裁の強化により、「H&M」などの欧州ブランドが中国で不買運動に直面(写真=AP/アフロ)

 「現代最悪の人権危機の一つだ」。3月22日、英国のラーブ外相はこう語気を強めた。相手は中国。少数民族ウイグル族の扱いが人権侵害に当たるとして欧州連合(EU)と英国が中国当局者などの資産を凍結し、EUや英国への渡航を禁止した。

 英国とEUが中国に制裁を科すのは1989年の天安門事件以来。強硬路線を後押ししたのが米バイデン政権の誕生だった。安全保障や貿易関係で関係が冷え込んだトランプ時代とは対照的に、EUはバイデン政権と連携を強化するため、中国に対する厳しい姿勢を明確にした。

 しかしこの関係性の変化は、中国が主要市場となった欧州企業を直撃した。中国で3月下旬からスウェーデンのアパレル大手へネス・アンド・マウリッツ(H&M)の不買運動が広がっている。同社は昨年、新疆ウイグル自治区に工場を持つ中国企業との取引を停止すると表明。EUによる対中制裁発表を受け中国メディアがその事実を取り上げたことで不買運動が起こった。

 EUと中国は2020年末に、投資環境を整備することを目的とする包括投資協定に大筋合意した。だが、欧州議会の党派は制裁解除が同協定を承認する条件に挙げており、議会承認が難しくなっている。現状では、欧州企業にとり中国への投資環境が悪化する懸念が強まっている。

 対中強硬路線で欧州と米国との関係性は強まるのか。3月24日にはブリンケン米国務長官が北大西洋条約機構(NATO)本部で「中国の行動が、我々の集団的な安全保障や繁栄を脅かしている」と力説。25日にはバイデン米大統領がEU首脳会議にオンラインで参加し、中国対策や新型コロナウイルス対策を協議したという。

炭素国境調整措置で思惑

 バイデン氏は就任直後に温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」への復帰を表明し、欧州では米国との連携に期待が高まっている。だが、経済的な損得が絡む具体策では交渉が難航する可能性がある。代表例がカーボンプライシングだ。欧州では温暖化ガスの排出量に応じて化石燃料に課税する炭素税を導入している国が多く、EUも排出量取引制度を導入している。

 EUはさらに、環境対策が十分でない国からの製品輸入に対して関税などの追加負担を課す「炭素国境調整措置」を導入しようとしている。バイデン政権もカーボンプライシングの導入を検討しており、国境調整措置でEUと米国が連携すれば、他の地域に強いプレッシャーがかかりそうだ。

 3月上旬には気候変動問題担当のケリー米大統領特使が「気候変動に対応するために強い同盟関係を再構築する」というEUとの共同声明を発表した。だが、国境調整措置については英フィナンシャル・タイムズに「経済や貿易などに深刻な影響を及ぼす。最後の手段であるべきだ」と語り慎重な姿勢をにじませた。EU主導のルール作りにくぎを刺した格好だ。

 政治的には反中親米にかじを切った欧州だが、経済では中国依存が続きそうだ。20年のEUと中国の貿易取引額は5860億ユーロ(約76兆円)と米国を抜き初めて最大の貿易相手国になった。

 国際通貨基金(IMF)の21年の経済成長率予測では、中国の8.4%、米国の6.4%に対しユーロ圏は4.4%程度にとどまる見通し。ドイツ産業連盟(BDI)は「EUは世界中から取り残されている」と危機意識を強める。中国依存を解消しながら経済成長を軌道に乗せる道筋はまだ見えていない。

(ロンドン支局長 大西 孝弘)

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