米2党制の歴史は人種問題に始まり人種問題に終わる
●民主党・共和党の支持者層の移り変わりの概要
<span class="fontSizeL">米2党制の歴史は人種問題に始まり人種問題に終わる</span><br />●民主党・共和党の支持者層の移り変わりの概要
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 例えば1960年代のケネディ大統領暗殺事件やベトナム戦争、70年代のウォーターゲート事件もディープステートの仕業とする考え方が一般市民に広がっている。2001年の同時多発テロ事件も、私腹を肥やそうとした一部の政治家や企業によるものだと信じる人がQアノン信奉者には多い。

 なぜこのような陰謀説が度々登場するのか。上の図は、米国2党制の支持者の移り変わりを示したものだ。1850年代、2党を分断した要素は「奴隷制を受け入れるか否か」にあった。

 奴隷貿易で巨万の富を築いた南部の商売人は継続を主張。対立は南北戦争に発展し、武器を売って富を得た北部の武器商人が政治資金を投じた共和党が「小さな政府」を信条とする礎を築いた。これが、「政治家を動かしているのは政府高官や企業など影の支配者」とする陰謀論のルーツと考えられる。

 その後、1930年代に世界恐慌で商人の勢力が弱まると、今度は黒人の勢力が増した。50年代に公民権運動が起き、支持者は党に関係なく北部か南部かの地域によって分断された。

 北部には奴隷制反対の人が多かったことから、黒人には北部を支配していた共和党支持者が多かった。ところが民主党のジョンソン大統領が黒人の公民権を認めたことで、黒人票が一気に民主党に流れた。80~2010年代に中南米からの移民も増え、民主党が移民受け入れを支持したことから中南米系の票も民主党に集中した。

 白人の支持だけでは立ちゆかなくなった共和党は13年、民主党と共同で移民を合法的に受け入れる法案を議会で通過させた。ところがこれに白人の支持者が猛反発。メキシコ国境に「壁の建設」を訴えたトランプ氏は、こうした白人層の絶大な人気を得て、16年の大統領選で勝利する。

 現在、世界を揺るがしている「分断」は米国では国の成り立ち上、常にそこにあり、移民と人種差別の問題も、時代によって強弱こそあれ常に存在し続けていた事象なのだ。トランプ氏はその強弱の風向きをうまくつかみ、政治的に利用することに成功した。

 ではなぜ現在のような極端な分断が米社会で生まれているのか。一つには、国のトップのリーダーシップが弱まっているからだと考えられる。

選挙制度の限界か

 米国の党制度を取り上げた書籍『Responsible Parties』を共同執筆した米イエール大学のイアン・シャピロ教授によると、極端な分断の背景には米国の選挙制度が抱える課題がある。

 大統領選では党を代表する候補を予備選で決めるが、この投票率が非常に低いのだ。「16年の大統領選で共和党の予備選の投票率は5%以下だった。その結果、選ばれたのがトランプ氏だ」とシャピロ教授は説明する。

 予備選では、選挙に熱心な極右や極左の有権者が多く投票するため、国民全体の意見が反映されにくい。にもかかわらず、大統領本選で有権者に与えられる選択肢は予備選で選ばれた候補者だけだ。結果、「必ずしも民意を反映していない『弱い』大統領が生まれる」とシャピロ教授は指摘する。

 この弱さをバイデン氏が払拭できればいいが、現時点でその兆しは見えない。次章では、混沌を増す世界で日本企業がなすべき備えを見ていく。

ナイキでも騒動、企業に問われる「ポリコレ」

 人種や性別などの差別や偏見を防ぐ「ポリティカル・コレクトネス(政治的公正さ)」が企業活動でも重要になり、一歩対応を間違えれば事業に損害を来す。これを象徴する事例が3月下旬、ニューヨークのスタートアップ企業、MSCHF(ムスチフ)と米ナイキの間で起きた。

 発端は、MSCHFがサタニズムを題材にしたシューズ「サタン・シューズ」をネット販売したことだった。デザインのベースになっているのが、米ナイキの人気シューズ「エアマックス97」だ。ソールの部分に赤い液体が入っており、「1滴の人の血を含む」とうたう。

<span class="fontBold">MSCHFが販売した 「サタン・シューズ」</span>(写真:AP/アフロ)
MSCHFが販売した 「サタン・シューズ」(写真:AP/アフロ)

 MSCHFが皮肉っているのが「企業が政治を影で支配し、政治家はサタニズムに興じている」とする陰謀論だ。だが販売後、サタン・シューズの販売元がナイキだと勘違いした消費者から「サタニズムを支持するナイキ製品はボイコットする」との声が上がった。ナイキはMSCHFを提訴、裁判所からMSCHFに対する販売差し止めの命令が下った。

 人種問題の扱いも重要になる。米国の企業広告業界では、さまざまな背景を持つ人たちをCMなどで意識的に取り上げる「インクルージョン」がより重視されるようになってきた。肌の色に限らず、体形やいでたち、性的少数派といった多様な人たちを登場させることが欠かせない。

 独調査会社スタティスタは「ブラック・ライブズ・マター」の運動が活発化していた2020年7月、同テーマを取り上げた企業の宣伝がブランド力向上や購買促進などにどのくらい貢献したかを調査し、スコア分析した。米プロバスケットボールNBAのキャンペーンが最も高いスコアを獲得してトップ、米ピザ宅配チェーンのパパ・ジョンズ・インターナショナルが2位、米コカ・コーラのスプライトが3位となった。

 インクルージョンを上手に味方にできれば顧客の信頼獲得にもつなげられる。「ポリコレ」を積極的に理解して活用すべきだ。

日経ビジネス2021年4月19日号 32~35ページより

この記事はシリーズ「バイデン100日 消えないトランプの呪縛」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。