この記事は日経ビジネス電子版に『押し寄せる移民にヘイトクライム 「トランピズム」は消えたのか?』(4月12日)として配信した記事を再編集して雑誌『日経ビジネス』4月19日号に掲載するものです

米連邦議会議事堂をトランプ氏支持者が占拠する混乱も収まらぬ中、第46代大統領に就任したバイデン氏。「分断から統一へ」の明確な方針の下に歩み始めた新政権だが、トランプ時代と同じ問題が噴出している。国境には移民が押し寄せ、人種差別の問題は深刻化し、ヘイトクライム(憎悪犯罪)が収まる気配も見えない。

<span class="fontBold">3月25日、就任後初めてとなる記者会見に臨んだバイデン大統領。国内では移民や人種差別などの問題が深刻になっている</span>(写真=左・右下:AP/アフロ、右上:AFP/アフロ)
3月25日、就任後初めてとなる記者会見に臨んだバイデン大統領。国内では移民や人種差別などの問題が深刻になっている(写真=左・右下:AP/アフロ、右上:AFP/アフロ)

 「候補時代に『移民は今こそ米国に来るべきだ』と繰り返したあなたを信じたからこそやってきたのに、国に返される人もいる。いつまでに解決するのか」

 ジョー・バイデン米大統領の初の記者会見が開かれたのは就任から64日が経過した3月25日。しびれを切らした地元メディアは次々に噴出する課題を問い詰めた。中でも米国民の関心を集めているのが、メキシコ国境に押し寄せている移民の問題だ。

 3月だけでグアテマラやホンジュラスなどから17万2000人が入国。そのうち1万8890人が、親の付き添いのない子どもたちだった。水や食料、寝る場所が不足し人道問題に発展している。

 だがバイデン氏は「カマラ・ハリス副大統領に対策を指示した」とするだけで具体的手段も日程も明らかにしなかった。「回答になっていない。対応が不十分だ」。CNNやニューヨーク・タイムズといった、就任前は民主党候補者のバイデン氏を強力に支持していたはずの左派メディアまでもが、手のひらを返したように批判の矛先を向ける。

 トランプ前政権下で深く刻まれた分断の溝は一向に解決の糸口が見えない。2020年5月に発生した白人警官による黒人男性ジョージ・フロイドさんの暴行死事件は、全米を人種差別撤廃に向けた大きな運動に突き動かした。ところがバイデン氏就任後は、さらにアジア系への差別の問題も浮上してきた。

 「3月29日からの1週間は一歩も家の外に出なかった」。ニューヨーク市在住の日本人女性はこう不安げな表情を浮かべた。

 同日の昼にマンハッタンで起きたアジア系を狙ったヘイトクライム(憎悪犯罪)は、同市在住のアジア系住民の暮らしを一気に変えた。65歳のフィリピン系女性がホームレスの男性に「おまえはよそ者だ!」と跳び蹴りされ、何度も頭部を踏みつけられた。目の前にある高級マンションの従業員2人は助けるどころかドアを閉め、トラブルを回避する様子が監視カメラに映っていた。

 残虐な事件は枚挙にいとまがない。「サンフランシスコでタイ系の84歳が朝の散歩中に地面に押さえ込まれ、その後に死亡」「ニューヨークで89歳の中国系女性が2人に殴られ、火を付けられる」「ニューヨークの地下鉄で何者かが61歳のフィリピン系米国人の顔をカッターで切りつける」──。アジア系米国人の支援団体によると、今年1~2月は前年同期に比べてアジア系を狙った犯罪が500倍に増えた。

続きを読む 2/2 「大統領は2人いる」

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