この記事は日経ビジネス電子版に『無印良品、その名も「ソーシャルグッド事業部」は何をしているのか』(3月23日)として配信した記事などを再編集して雑誌『日経ビジネス』3月29日号に掲載するものです

三方よし経営の要諦は、ステークホルダー重視の考え方を社内で広げ、持続性を持たせること。地域や従業員、消費者を巻き込み、価値を循環させる仕組みが欠かせない。投資家の理解を得るために、情報開示や法制度でも新たな枠組みが必要になりそうだ。

 良品計画には、その名も「ソーシャルグッド事業部」という部門がある。事業を通じた社会貢献が使命だ。わずか9人の小さな部署が、事業の在り方や社員の意識を変え始めている。

 1980年、無印良品の誕生時のキャッチフレーズは「わけあって、安い」。割れた干しシイタケを商品にするなど、社会的コストを減らすことをうたい、行き過ぎた消費社会へのアンチテーゼとして生まれたブランドだった。

 無駄を省いたシンプルな商品を提供する基本は今も変わらないが、ビジネスの中身は大きく変わった。「海外で生産した商品を売ることが本当に地域貢献につながっているのか。店舗スタッフの雇用だけになってはいないか」とソーシャルグッド事業部長の生明弘好氏は自問する。

 地方では人口減が進み、このままでは国内ビジネスは縮小していくだけ。地域に貢献し資金循環を自ら生み出さなければ、持続的な成長は難しい。そんな問題意識から、地域活性化を念頭に置いた新規事業の担当部署として2018年2月に誕生したのが、ソーシャルグッド事業部だ。

 その象徴的なプロジェクトが、20年7月にオープンした「無印良品 直江津」(新潟県上越市)だ。売り場面積約5000m2の世界最大級の店舗を、幹線道路沿いではなくあえて中心市街地に立地。19年に閉店したイトーヨーカドーの後継テナントとして出店した。

「無印良品 直江津」(新潟県上越市)では地元食材を使う飲食スペースを開設

シャッター通りに出店

 店内には地場の特産品の販売コーナーや、地元の農産物や飲食店のレシピを基にしたメニューを提供する飲食スペースを設置。全国展開する社内の飲食事業はあえて取り入れず、地域との連携を優先した。

 この大型店舗と対照的なのが、今年2月に山形県酒田市でオープンした「無印良品 酒田POP-UP STORE」。シャッター通りとなっている市街地の空き店舗を利用した小型店舗だ。19年にパートナーシップ協定を結んだ酒田市では中山間地域で軽トラックによる移動販売に取り組んでおり、地域活性化の取り組みをさらに一歩進めた形だ。

上越市での移動販売は地元バス会社の車両・ドライバーを活用

 これらは採算性や投資効率だけを考えるなら実現が難しかったかもしれない。生明氏は「収益性も考えてはいるが、大きくもうかるわけではない。中心市街地への訪問客の増加や空き店舗の減少といった、地域へのインパクトを尺度として評価している」と話す。

 新規出店では大都市のショッピングセンターを除けば地域との連携が不可欠で、ソーシャルグッド事業部のスタッフが何らかの形で関わることが大半という。直江津への出店プロジェクトではソーシャルグッド事業部の1人が、店舗開発部門、営業部門、現地スタッフら5人とチームを組んで店舗の在り方を検討した。

 その過程で開かれたのが、地元の住民や行政と対話しながら地域課題の解決方法を探る「暮らしの編集学校」というワークショップだ。他事業部からも参加者を募集してこれまで4回開催し、ワークショップを通じて地域の課題解決に取り組む経験をした社員数は65人になった。生明氏は「環境が似ている東アジアでも近いうちに事業展開できるだろう。全社員がソーシャルグッドの考え方を持つのが目標だ」と話す。

社員が住民と対話しながら地域の課題解決を考える「暮らしの編集学校」を実施している
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