この記事は日経ビジネス電子版に『高速バスの革命児、ウィラーの変心 細る「地域の足」を裏で支える』(3月15日)として配信した記事などを再編集して雑誌『日経ビジネス』3月29日号に掲載するものです
「三方よし」のビジネスを全国に広げるには、地域との関係作りが欠かせない。広域化・効率化に突き進むのではなく、地域と共生し収益を分け合うビジネスが成長している。地道な取り組みが世界的に評価される認証制度も生まれた。

「生活の足を住民や地元の交通事業者と作っていく」──。高速バス大手WILLER(ウィラー、大阪市)の村瀬茂高代表は、3月9日に同社が発表した新サービス「mobi(モビ)」の意味についてそう語る。
モビはクルマによる約2km以内の短距離移動を何度でも利用できるサブスクリプション(定額課金)サービス。専用アプリで配車を依頼すると、10分以内に乗り合いタクシーやバスがやってくる。月額5000円程度で、5月ごろから東京都豊島区、渋谷区、京都府の京丹後市でサービスを始める予定だ。

モビでは地域の鉄道会社やバス会社が主体となってサービスを運営し、運行は地元のタクシー会社や貸し切りバス事業者に依頼。ウィラーはシステムの開発や運用、データ分析などを担う。住民や行政など「あらゆる関係者が理解し、協力してもらえる“八方よし”のビジネスモデルでないといけない」(村瀬氏)との考えがあるからだ。
もっとも、ウィラーがこのビジネスモデルにすんなりとたどり着いたわけではない。2000年代、貸し切りバスをチャーターして東京~大阪間などの都市間を走らせる「高速ツアーバス」事業に参入。19年12月期は20路線、年間利用者数は309万人、バス保有台数229台と大手の一角を占めるまでになった。しかしその過程では既存のバス事業者との摩擦を生んだ。路線バスとしての認可を経ず旅行商品として販売したからだ。この対立は13年8月に「新高速乗合バス」として制度が一本化されるまで10年近くくすぶり続けた。
事業の方向性を変えるきっかけとなったのは、14年に京都府・兵庫県の北部を走る赤字ローカル線の運営引き継ぎに名乗りを上げたことだった。線路や車両は沿線自治体の負担で維持する一方、運営を民間に託す「上下分離方式」で運営事業者が公募され、ウィラーが選ばれたのだ。そして、子会社のウィラートレインズ(京都府宮津市)を設立し「京都丹後鉄道(丹鉄)」として15年4月から運行を始めた。
Powered by リゾーム?