この記事は日経ビジネス電子版に『ヘルスケアの優等生、富士フイルムHD助野社長が明かす勝利の方程式』(3月15日)、『時には名誉ある撤退も、メルカリに学ぶ「見切る力」』(3月16日)として配信した記事を再編集して雑誌『日経ビジネス』3月22日号に掲載するものです。

レッドオーシャン市場で戦う上で必要なのが、「参入」や「撤退」の判断だ。危機に直面してからでは、取り返しのつかないことになるリスクも十分にある。新領域への進出と後退を繰り返すとき、経営陣はどのようなことを念頭に置くべきなのだろうか。

(写真=Catherine Ledner/Getty Images)
(写真=Catherine Ledner/Getty Images)

 「よくレッドオーシャンだと指摘されるが、我々は最近になって参入したわけじゃない」。富士フイルムホールディングス(HD)の助野健児社長・COO(最高執行責任者)は、注力する医療・ヘルスケア分野に参入が相次ぐ現状にも冷静な反応を示す。

 写真フィルムの国産化に向けて、大日本セルロイド(現ダイセル)からスピンアウトして1934年に創業した富士写真フイルム(当時の社名)。2年後の36年にはレントゲン用フィルムに参入しており、医療・ヘルスケア分野は「祖業」に近いといえる。

 特筆すべきはこの分野での多角化だ。フィルムを軸に画像診断、内視鏡といった医療機器、それらをつなぐIT(情報技術)システムに事業を拡大。バイオ医薬品の開発製造受託(CDMO)も手掛ける。将来の有望事業として再生医療にも取り組んでいる。

 足元の業績は好調だ。2021年3月期における富士フイルムHDの「ヘルスケア事業」の売上高見通しは5500億円と、10年前から倍増。売上高全体の4分の1を占めるまでに成長を遂げた。20年代半ばには「1兆円に引き上げたい」と助野社長は意気込む。

4つの基準で参入を判断

 消費者向けも企業向けも含め、多くの企業が参入する医療・ヘルスケア市場で成長を続ける富士フイルムHD。その秘訣を助野社長はこう明かす。「新規分野に参入する際には4つの基準で判断している」

 具体的な基準は、①市場の成長性②保有する技術がターゲット市場にマッチするか③競合が増えても勝ち続けられるか④これまでの事業の経験値が生かせるか──の4つ。「3~5年後に世の中がどう変わるかを見極めていく」と助野社長は言う。

 これら4つの基準をベースに「どのタイミングで出せば価値が提供でき、そのために今何をすべきかを考えている」(助野社長)。社内に技術がなければ研究開発を加速させ、間に合わなければM&A(合併・買収)や提携を模索する。

 こうした判断基準の下で成長を遂げた事業の代表例が、21年3月期に1000億円の売上高を見込むバイオCDMO事業だ。検討が始まったのは00年代後半。高分子医薬品の開発が頭打ちになり、バイオ医薬品へシフトするタイミングだった。製薬大手が新薬開発に経営資源を集中する動きやファブレスである創薬ベンチャーの台頭から、受託製造のビジネスが伸びると判断した。

 しかも、バイオ医薬品の製造は「温度管理など写真フィルムを作る技術が生かせる」(助野社長)。参入が相次いでも歩留まりなど品質面での差を打ち出せると判断。勝機を逃すまいと、11年に米メルクから事業を買収した。

 結果として読みは的中。欧州の製薬企業などがバイオCDMOを強化する中でも事業を拡大。「10年をかけて花開くことができた」と助野社長は話す。

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