レッドオーシャンの市場にはビジネスのチャンスと脅威が常に並存している。新規参入する企業も先行する企業も、勝ち抜く知恵が必要だ。「赤い海」で存在感を放つ企業から、他社との違いを生むための条件を探った。
勝つ条件 1
後発こそデータより現場


「全国展開の初年度にもかかわらず『定番レモン』はトップシェアを獲得していることをうれしく思う」。2月12日にコカ・コーラボトラーズジャパンホールディングスが開いた2020年12月期の決算説明会で、カリン・ドラガン社長は自信を見せた。
「アルコール離れ」が叫ばれる中でも10を超えるブランドがひしめくチューハイ・サワー市場。その激戦区で日本コカ・コーラのレモンサワー「檸檬堂」の販売が絶好調だ。20年は約790万ケース(350ミリリットル缶×24本換算)と当初計画の1.6倍になった。
檸檬堂は日本コカ・コーラにとって初のアルコール飲料で、19年10月から全国で販売を始めた。チューハイ・サワーのビジネスとしての特徴は、1種類の商品ブランドで複数の果実の味をラインアップする他社とは大きく異なり、レモンサワーに絞ったことだ。その上で3~9%のアルコール度数、7~17%の果汁率で現在5種類を展開。レモンサワーとしては幅広い品ぞろえだ。
消費者が一度檸檬堂を気に入れば「今日はお祝いで盛り上がりたいから強めのアルコール9%」「まったりしたいから3%」などと気分に合わせて買う機会が増え、シェアを高められる。
冒頭の発言通り、ラインアップの一つである5%の「定番レモン」は、後発でありながらレモンサワー市場の金額シェアで首位を獲得したという(インテージSRI調べ)。
コカ・コーラグループは世界各国に展開しマーケティングのデータを徹底的に駆使するイメージが強い。日本コカは今回も消費者や市場調査などのデータを当然、分析した。ただ、成功した背景にはむしろ「データに頼らない」という戦略が奏功した面がある。
アルコール参入の検討が始まったのは17年ごろ。炭酸や果汁など清涼飲料で培ったノウハウが生かせることもあり「(チューハイなどの)低アルコール飲料は有力候補だった」と、関口朋哉アルコールカテゴリー事業本部長は振り返る。
ただ、最後発のため他社と同じことをしても勝てない。「何を出すべきか悩んだ」と関口氏。そこで開発チームは、狙っていた家庭用の市場だけでなく「世の中全体のお酒のトレンドを見つめ直す」(関口氏)ことから始めた。
開発チームが取った行動で重要だったのは、全国津々浦々の居酒屋やバーにコンセプトが見つかるまで通い続けたことだ。メンバー1人当たり数十店舗を担当し、日本のアルコール消費の現場を目と耳、さらに舌も使って確かめる。そこから、商品の骨格となるヒントを発見していった。
商品の骨格を生むヒントに
まず調査だけではおぼろげだったレモンサワーのトレンドが「確実に来ている」(関口氏)と実感できたことが大きい。その上で、新鮮だったのがレモンサワーの豊富なバリエーションだ。
素材や製法にこだわって1杯1000円で提供する店があれば、1店舗で10種類出している専門店もあった。しかも「こうした独自の進化を消費者が楽しんでいる」と関口氏。レモンサワーに特化しつつ、アルコールの強さなどで複数の商品をそろえるという檸檬堂のコンセプトが固まっていった。
さらに全国の居酒屋やバーを巡る中で、商品の決め手となる「味」のヒントも得た。その一つが、九州では一般的な「前割り焼酎」という習慣だ。
焼酎を事前に水で割っておくことで、水とアルコールのなじみをよくするというもの。これをレモンサワーに応用してみると「専門店のような味を作り出せた」と関口氏は話す。こうして、丸ごとすりおろしたレモンをお酒にあらかじめ漬け込む「前割りレモン製法」が生まれた。
POS(販売時点情報管理)データやネットを使ったアンケートで市場を分析しやすくなり、後発で参入する場合はどうしてもデータ分析に意識が向かいがちだ。日本コカの事例は、他社との違いを生むために「リアル」を重視することの大切さを教えている。
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