欧州、中国などに先を越され、日本は遅まきながら炭素中立目標を宣言した。気候変動の名を借りた国際競争に勝つため、菅義偉首相は反転攻勢に意欲を見せる。ハードルは高いが、全力で挑まなければ成長市場で致命的な敗北を喫しかねない。

 「我が国は、2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを、ここに宣言いたします」。昨年10月26日、国会で就任後初の所信表明演説に臨んだ菅義偉首相は、やや緊張した面持ちでそう述べた。

就任後初の所信表明演説で菅義偉首相は50年の炭素中立目標を宣言した(写真=共同通信)

 カーボンニュートラル(炭素中立)とは、二酸化炭素(CO2)をはじめとする温暖化ガスの排出量から、森林による吸収量などを差し引いた実質的な排出量をゼロにすることを指す(用語解説)。

 だが、日本にとって炭素中立の実現がどの程度チャレンジングな目標なのか、いまひとつピンとこない読者も多いのではないだろうか。ここで50年に向けて日本が減らさなければならない温暖化ガスがどの程度の量なのか振り返ってみよう。

 温暖化ガスはあらゆる経済活動で発生する。日本の19年度の総排出量は12億1300万トン(速報値、CO2換算)。風力や太陽光といった再生可能エネルギーの拡大や省エネ機器の導入、経済活動の変化などにより、14年度以降6年連続で減少した。

2050年実質ゼロまでの道のりは遠い
●日本の温暖化ガス排出量

 排出削減は順調に進んでいるようにも見えるが、長期的な視点に立つと景色は一変する。およそ30年前、1990年度の排出量は12億7600万トンだった。その後、モータリゼーションや家庭やオフィスの電力消費量の拡大などで排出量は増加。1990年度と比べた現在の削減幅はわずか5%にとどまる。

 これまでの約30年で5%しか減らせなかった年間排出量を、次の30年では一気に実質ゼロにまでもっていくというのが、菅首相が打ち出した炭素中立目標の意味するところなのだ。

 2050年炭素中立を達成するためには、脱炭素につながるあらゆる技術と産業構造の「ウルトラCのイノベーション」が不可欠だと専門家は口をそろえる。「軽々に口にできる目標ではない」(政府関係者)ため、慎重な姿勢をとってきた日本だが、そうも言っていられない状況になった。

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