燃やしてもCO2が発生しないため、国が脱炭素の切り札とする水素とアンモニア。だが、価格や供給面の課題に加え、製造段階のCO2が高い壁として立ちはだかる。「夢のエネルギー」をとりまく「厳しい現実」を直視しなければ、水素社会は幻に終わる。



2050年の炭素中立を実現する上で越えるべきハードルがいかに多いか。政府が炭素中立に向けた工程表とする「グリーン成長戦略」で、切り札と位置づけている水素やアンモニアが直面する課題を見れば明らかだ。
燃やしても二酸化炭素(CO2)が発生せず、枯渇する心配もない──。そんな「夢のエネルギー」として、注目を集める水素。しかし、普及までには巨大な3つの壁を越えなければならない。
売れば売るほど赤字
1つ目は、価格の壁だ。現在、日本で流通する水素は年間1万トン程度とされる。戦略では、発電や輸送、製鉄などでの利用を急ピッチで進め、国内導入量を30年に最大300万トン、50年に2000万トン程度へと飛躍的に高めることを目指す。政府は導入量達成の前提として、水素の価格を30年に1Nm3(1ノルマルリューベ=気体の標準状態での1m3)当たり30円、50年に20円以下にすることを目指している。
だが現状、水素利用が先行している燃料電池車(FCV)向け水素ステーションでの販売価格は同100円程度で、大きな隔たりがある。しかも、FCV普及のための採算度外視の価格であり、「売れば売るほど赤字になるのが実情」(関係者)。実際のコストはそれ以上に高い。
コストを下げるには消費量を大幅に増やす必要があるが、安くないと利用が増えない。この「鶏と卵」のジレンマが、水素利用の足かせとなってきた。そこで昨年12月7日に岩谷産業、トヨタ、三井住友フィナンシャルグループなど88社が「水素バリューチェーン推進協議会」を設立。需要側と供給側の本格的な連携は、緒に就いたばかりだ。
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